2026年6月13日 PartⅡ FP1級 実技試験過去問解説&本試験質問・解答例

目次

本記事の構成

本記事は以下の内容で構成されています。

・実際の設例
・本試験の概要と傾向
・得点のカギとなる論点
・各質問事項と検討のポイント
・実際の面接試験の想定応答集

実際の設例

それではまず、今回の設例を読んでいきましょう。

設 例●
 Aさん(80歳)は、三大都市圏のS市内において、先祖伝来の甲土地と乙土地を所有している。Aさんは、3年前に妻を亡くして以来、乙土地上の自宅(乙建物)に1人で暮らしており、青空駐車場として賃貸している甲土地からの賃貸収入(年間400万円)と、年金収入(年間200万円)で生活を送っている。Aさんには、一人息子の長男Bさん(50歳)がいるが、隣県のT市内にある分譲マンションで妻子と暮らしており、S市に戻る予定はない。
 Aさんは、認知能力に問題はないものの、要介護1の認定を受けており、長男Bさんの勧めもあって、近々長男Bさん宅の近くにある介護付き有料老人ホームに入居する予定である。
 先日、Aさんのもとに大手ドラッグストアであるX社の担当者が来訪し、長男Bさんの立会いのもとで話を聞くと、甲土地上に新規出店したいとの申入れがあった。その際、近々老人ホームへ入居する予定であることを伝えたところ、Aさん側の事情を踏まえて、3つの提案(右頁の【X社からの提案内容】参照)があった。
 Aさんは、現在の駐車場収入が低いと考えていたこともあり、長男Bさんと相談し、X社の各提案を検討してみることにした。

【Aさんの所有財産の概要】
・現預金:3,000万円
・甲土地:地積1,200㎡、固定資産税・都市計画税は年間200万円
・乙土地:地積150㎡
・乙建物:木造2階建て、1980年築、延べ面積130㎡
※乙土地・乙建物の固定資産税・都市計画税は年間10万円
※入居予定の介護付き有料老人ホーム:
入居一時金2,000万円・年間費用360万円(賃料、管理費、食費、日用品等)
 Aさんは、現状の現預金は減らしたくないと考えている。また、地代の手取り収入から入居費用のほかに、長男Bさんに毎年110万円ずつ、暦年課税による贈与を行うことを希望している。
 Aさんは、X社の各提案と自身の計画について、FPであるあなたに相談をしてきた。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定1級実技試験(資産相談業務)2026年

本試験の概要と傾向

難易度・受験生目線の対策方法

高齢のAさんの有料老人ホーム入居に伴う資金計画、空き家となる自宅(乙土地・建物)の売却、そして甲土地の「事業用定期借地権」を組み合わせた、不動産有効活用の総合的な設例です。X社から提示された3つの異なる計画案(地代の差異、乙土地の売却か一体賃貸か)の比較検討に加え、自宅売却時の税制特例(3,000万円特別控除)の要件、さらには「手元現預金を減らさずに入居一時金を排出し、年間費用と長男への暦年贈与を賄う」という顧客の資金ニーズを見極める必要があります。

受験対策としては、まず自宅(乙土地・建物)を売却する際の税制上の取り扱いを整理しておくことが最優先です。特に、ホーム入居後に本人が売却する場合の「居住用財産の3,000万円特別控除」の適用期限(住まなくなった日から3年目の年の12月31日まで)や、死後に長男が売却する場合の「空き家特例」の要件を論理的に説明できるよう準備しましょう。

本設例の関連テーマ

「FPキャンプ1級実技試験コース」を受講されている方は、下記の論点について動画を通してしっかり学んでおきましょう。

FPキャンプ内でも、これらの論点に関してはしっかりと解説しております。
不動産の譲渡①居住用財産の譲渡の特例
不動産の譲渡②空き家に関するルールと特例
相続税対策③生前贈与の活用‐1暦年課税と相続時精算課税

得点のカギとなる論点

PartⅠと異なり、PartⅡでは質問事項が記載されているため、これらについて設例読みの段階で、想定される質問を整理しておきましょう。

(FPへの質問事項)

1.Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
 ①Aさんから直接聞いて確認する情報
 ②FPであるあなた自身が調べて確認する情報
2.乙土地について、Aさんが老人ホームに入居後に売却する場合の課税関係はどうなり ますか。また、老人ホームに入居したAさんが亡くなった後、相続人である長男Bさんが売却する場合の課税関係はどうなりますか。
3.あなたは、Aさんに提案①、提案②、提案③のいずれを勧めますか。その理由とともに教えてください。
4.長男Bさんへの贈与計画に関して、将来の相続税を踏まえて、何か気を付ける点はあ りますか。
5.本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。

なお、PartⅡの最初および最後の質問は、いずれの《設例》においても共通して出題される固定質問です。これらのいわゆる「王道質問」への備え方や考え方については、以下の記事をご参照ください。
PartⅡ対策 固定質問3つへの考え方

各質問事項と検討のポイント

それでは各質問事項に対する提案のポイントと、知っておくべき知識について解説していきます。

なお実際の試験で問われた細かな論点や質問事項などは、この後の「面接試験の想定応答集」で紹介しておりますので、本章では省略します。

質問2 乙土地の売却に係る課税関係

提案のポイント

・譲渡に係る税金と特例

解説 

土地や建物などを譲渡した場合は、譲渡所得が課されます。
譲渡所得の計算式における税率は、取得日から譲渡年の1月1日における所有期間によって異なり、申告分離課税となります。

【譲渡所得の税率】
・5年超:長期譲渡所得(20.315%
・5年以下:短期譲渡所得(39.63%)

譲渡所得の計算上活用できる特例として次の3つをおさえておきましょう。

①居住用財産の3,000万円の特別控除

1つ目の特例は、居住用財産の3,000万円の特別控除です。

居住用財産の3,000万円の特別控除とは、居住用財産を売った場合に、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000 万円まで控除ができる特例です。主な要件は以下の通りです。

・土地への適用は、居住していた建物が存在した土地に限られる
・居住しなくなった日から3年目を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡が必要となる

本件において、譲渡の対象となる乙土地・建物は、Aさんが所有し、1人で暮らしている木造2階建ての自宅です。この場合、Aさんは乙建物およびその敷地である乙土地の全体について、居住用財産の3,000万円の特別控除の適用を受けることができます。

②軽減税率の特例

2つめの特例は、軽減税率の特例です。

軽減税率の特例とは、居住用財産を売った場合に、長期譲渡所得の税額に軽減税率を適用できる特例です。主な要件として、譲渡資産の所有期間が10年を超えている必要があります。

要件を満たした場合、課税譲渡所得金額のうち6,000万円以下の部分について、14.21%の軽減税率を適用することができます。

本件の場合、乙建物は1980年築であり、また乙土地は先祖伝来の土地で所有期間が10年を大きく超えていることから、適用可能であることがわかります。

③空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除

3つ目の特例は、空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除です。

相続によって、被相続人が一人で暮らしていた自宅(空き家)を取得した相続人が、一定の要件を満たして売却した場合、譲渡益から最高3,000万円まで控除できる特例です。

本件では、質問内容として、老人ホームに入居後の課税関係だけでなく、入居後亡くなった場合の課税関係を問われていることから、空き家の特例を論点として挙げていることがわかります。

将来Aさんが老人ホームで亡くなった後に、長男Bさんが自宅(乙土地・建物)を売却する際に本特例の適用を受けるためには、以下の主要な要件をすべて満たす必要があります。

1.建築時期の要件(旧耐震基準の建物)
対象となる乙建物は、昭和56年(1981年)5月31日以前に建築された家屋(区分所有建物を除く)である必要があります。
本件の乙建物は1980年(昭和55年)築であるため、この築年数要件を完全にクリアしています。

用語解説

旧耐震基準:1981年5月31日までの建築確認に適用されていた耐震設計基準。国土交通省は、1981年より前に建てられた建物には耐震性が不十分なものが多いとして、耐震診断や改修を勧めています。

2.被相続人の居住要件
原則として、相続開始直前に被相続人が一人で居住していたことが条件ですが、介護保険法の要介護・要支援認定等を受けて老人ホーム等に入所していた場合も対象となります。

3.取得・売却に関する要件
・相続人である長男Bさんが、乙土地と乙建物の両方を相続により取得する必要があります。
・相続開始日から起算して3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡を完了させなければなりません。
・譲渡価額の合計額が1億円以下であることが必須です。

4.引き渡し時までの物理的対策要件
・売却後(引渡しの翌年2月15日まで)に、建物をすべて取り壊して更地にして引き渡すか、あるいは現在の新耐震基準に適合させる耐震リフォームを施して引き渡す必要があります。

質問3 どの提案が適切か

提案のポイント

3つの観点から各提案を評価
評価軸1:入居一時金2,000万円を確保できるかどうか
評価軸2:入居後の年間収支
評価軸3:将来の土地利用や資産価値の維持

解説

本件では、X社から甲土地・乙土地の有効活用について3つの提案が示されています。Aさんは近々介護付き有料老人ホームへ入居予定であり、入居一時金2,000万円と年間費用360万円が必要になります。また、手元の現預金3,000万円は減らしたくないと考えており、長男Bさんに毎年110万円ずつ贈与することも希望しています。

そのため、各提案を検討する際は、単に地代の多い少ないだけでなく、次の3点から整理する必要があります。そして、各提案を評価すると以下のようになります。

評価軸1:入居一時金2,000万円を確保できるかどうか
評価軸2:入居後の年間収支
評価軸3:将来の土地利用や資産価値の維持

提案①提案②提案③
評価軸1
評価軸2
評価軸3

提案①:甲土地のみを貸す案

提案①は、甲土地のみを20年の事業用借地権で貸す案です。年額地代は720万円で、前払地代として2,000万円を受け取ることもできます。そのため、前払地代を利用すれば、老人ホームの入居一時金2,000万円は用意できます。

しかし、前払地代は毎年の地代のうち100万円を20年分前取りするものです。そのため、実質的な年額地代は720万円から100万円を差し引いた620万円となります。さらに、甲土地の固定資産税等200万円に加え、乙土地・乙建物の固定資産税等10万円も残るため、年間の手取り額は620万円-210万円=410万円程度となります

Aさんは、老人ホームの年間費用360万円に加え、長男Bさんへの毎年110万円の贈与も希望しているため、年間470万円の支出が見込まれます。したがって、提案①では、毎年60万円程度の不足が生じる可能性があります。

また、提案①は甲土地のみの賃貸であるため、乙土地・乙建物がそのまま残ります。Aさんが老人ホームに入居した後、乙建物が空き家となる可能性があり、その管理や活用の問題も残ります。

したがって、提案①は、入居一時金の確保はできますが、入居後の年間収支と乙土地・乙建物の有効活用の面で、提案②に劣ると考えられます。

サトシ講師

サトシ講師のワンポイント
Aさんが老人ホームへ入居し、長男BさんもS市に戻る予定がないことから、乙土地・乙建物は空き家となる可能性が高いです。

そのため、この機会に乙土地・乙建物の活用方針を整理しておくことが望ましいでしょう。

提案②:甲・乙土地を一体で貸す案

提案②は、甲土地と乙土地を一体で20年の事業用借地権により貸し付ける案です。年額地代は844万円で、前払地代として2,000万円を受け取ることもできます。また、乙建物の解体費はX社が負担します。

この案であれば、前払地代2,000万円により、Aさんは現預金を大きく取り崩すことなく、老人ホームの入居一時金を準備できます。

また、前払地代は20年分の地代の前取りであるため、毎年100万円分を差し引いて考えると、実質的な年額地代は744万円です。そこから有効利用後の固定資産税・都市計画税225万円を差し引くと、手取りはおおむね519万円となります。

Aさんは、老人ホーム費用360万円と長男Bさんへの贈与110万円、合計470万円を毎年支出する予定です。したがって、提案②であれば、入居後の年間支出も地代収入からおおむねまかなうことができます。

さらに、提案②では、乙建物の解体費をX社が負担してくれるため、空き家となる乙建物の管理問題を解消できます。それだけでなく、甲土地と乙土地を一体で貸すことにより、まとまった事業用地として活用できる点も大きなメリットです。

提案③:乙土地・乙建物を売却し、甲土地のみ貸す案

提案③は、乙土地・乙建物を2,300万円でX社に売却し、甲土地のみを20年の事業用借地権で貸す案です。年額地代は750万円です。

乙土地・乙建物の市場価格は2,200万円程度とされているため、2,300万円で売却できる点は悪くありません。売却代金により、老人ホームの入居一時金2,000万円を用意することも可能です。

また、年間収支の面でも、甲土地の地代750万円から固定資産税・都市計画税200万円を差し引くと、手取りはおおむね550万円となるため、老人ホーム費用360万円と贈与110万円をまかなうことは可能です。

このように、毎年の地代収入(620万円)だけでは年間680万円におよぶ定額支出を賄うことができず、結果としてホーム入居後は不足する資金を補填するために、手元の現預金を毎年切り崩し続けなければならない状況に陥ります。したがって、提案①は「手元の現預金は極力減らしたくない」というAさんの意向に反するプランであり、最適な有効活用策としてはお勧めできないと判断できます。

結論

以上より、本件では提案②を勧めるのが妥当といえます。

提案②は、前払地代2,000万円により老人ホームの入居一時金を確保でき、入居後の年間費用や長男Bさんへの贈与も地代収入でまかなえる見込みがあります。さらに、乙建物の解体費をX社が負担し、甲土地・乙土地を一体で有効活用できるため、空き家問題の解消と将来の土地価値の維持にもつながります。

質問4 長男Bさんへの贈与計画

提案のポイント

・暦年贈与では基礎控除部分も相続税の課税価格に算入(生前贈与加算)される可能性がある
・相続時精算課税制度の基礎控除の活用
・相続人とならない者に贈与することで生前贈与加算を回避

解説

Aさんは、地代の手取り収入から長男Bさんに毎年110万円ずつ、暦年課税による贈与を行うことを希望しています。

暦年課税の基礎控除部分は生前贈与加算の対象となる

毎年110万円以内の贈与であれば、贈与税の基礎控除内に収まるため、その年の贈与税は発生しません。しかし、ここで注意すべきなのは、「贈与税がかからないこと」と「相続税の計算に入らないこと」は別問題だという点です。

長男BさんはAさんの相続人であるため、Aさんから受けた暦年課税贈与については、生前贈与加算の対象となる可能性があります。特にAさんは80歳であるため、今後毎年110万円ずつ贈与しても、相続開始前一定期間内の贈与として相続税の課税価格に加算され、相続税対策としての効果が限定的になる可能性があります。

相続時精算課税制度の活用

そのため、Bさんへの贈与を検討する場合には、暦年課税だけでなく、相続時精算課税制度の活用も選択肢になります。令和6年以後の相続時精算課税制度には、年間110万円の基礎控除があります。相続税の計算上加算されるのは、この基礎控除を差し引いた後の金額であるため、毎年110万円以内の贈与であれば、相続税の課税価格に加算されないことになります。

ただし、相続時精算課税制度を一度選択すると、その贈与者からの贈与については暦年課税に戻ることができません。また、相続時精算課税選択届出書の提出も必要となるため、安易に選択するのではなく、今後の贈与計画全体を踏まえて検討する必要があります。

相続人でない人物への贈与で持ち戻しを回避

さらに、Bさんではなく、Bさんの子、つまりAさんの孫への贈与も検討できます。孫がAさんから相続や遺贈などにより財産を取得しないのであれば、その孫への暦年贈与は生前贈与加算の対象になりません。したがって、Bさんへの贈与に比べて、相続税対策として有効になる場合があります。生前贈与加算は「相続または遺贈により財産を取得した人」が受けた一定期間内の贈与を対象とするためです。

まとめ

まとめると、本件では、Bさんへの暦年贈与は7年持戻しに注意し、相続時精算課税制度の基礎控除の活用や、Aさんの孫への贈与も代替案として検討する、という整理になります。

実際の面接試験の想定応答集

それでは、上記の質問事項と知識の整理を踏まえたうえで、実際に試験会場で面接官から行われた質問を再現した、想定応答集をご覧ください。

想定応答集の注意点

  • 本想定応答集は、金財実施のFP1級実技試験を実際に受験した「FPキャンプ1級実技コース」受講生のアンケ―トに基づき、FPキャンプ講師陣が実際の面接試験のやりとりを再現したものです。
  • 「FPキャンプ1級実技コース」は、1級実技試験受験生の36%が利用し、利用者数は各試験ごとに180名以上となっています。本想定応答集では、大量のアンケートデータを集計し、試験機関が想定されていると思われる王道の質問の流れをご紹介しています。
  • 記事の都合上、本想定応答集は、実際に行われた質問を一言一句再現したものではありません。面接官や本番試験の解答の流れによって、異なる質問が行われているケースもございます。
  • 本想定応答集の回答は、FPキャンプ講師陣が考える模範解答を掲載しております。試験機関側が模範解答としたものではありません。また、この通りに回答しなければならない得点が得られないというものでもありません。

質問1 確認する情報と自身で調べる項目

(受検生)と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんから直接聞いて確認する情報として考えられる項目は何がありますか?

以降の内容につきましては、FPキャンプ1級きんざい実技コースをご利用の方のみご覧いただけます。

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