2026年6月7日 Part Ⅰ FP1級 実技試験過去問解説&本試験質問・解答例

目次

本記事の構成

本記事は以下の内容で構成されています。

・実際の設例
・本試験の概要と傾向
・得点のカギとなる論点
・各質問事項と検討のポイント
・実際の面接試験の想定応答集

実際の設例

それではまず、今回の設例を読んでいきましょう。

●設例●
 Aさん(65歳)は、大都市圏で調剤薬局を営むX株式会社(非上場会社)の2代目社長である。X社は、かかりつけ薬剤師が患者をサポートする体制を整え、地元密着型薬局として業績は堅調に推移してきた。人材面でも、複数店舗を任せられる幹部社員や他の模範となる薬剤師が育っている。ただ、大手チェーンの業界再編に伴う競争激化や頻繁な薬価改定による利益率の低下で事業環境は厳しさを増しており、AさんはX社の先行きに危機感を抱いている。

 Aさんは、社員の一層のモチベーションアップのため、従業員持株会を設立するプロジェクトを進めている。従業員持株会については、取引銀行の本部専門家から、自社株対策としても効果があることを聞いているが、改めてメリット・デメリットを整理したうえで、その仕組みについて知りたいと思っている。

【事業承継について】
 長女Cさん(38歳)は、X社に勤務し、管理部門を統括する妻Bさん(63歳、X社の専務取締役)のもとで実務を担っている。一方、長男Dさん(35歳)は、脳神経外科医として大学病院に勤務しており、将来は研究の道に進みたいという希望を持っている。
 Aさんとしては、長男Dさんに家業に戻ってほしいとの淡い期待を抱いているものの、性格が異なる兄弟での経営に一抹の不安もあり、長男Dさん本人の希望を尊重するつもりでいる。そのため、長女Cさんには経営者としての道を歩んでほしいと思っているが、長女Cさんは今の業務に満足し、自分が先頭に立つという意識に乏しいところが気になっている。
 また、Aさんは、昨年来、仲介会社を通じて、大手薬局チェーンからM&Aの誘いを受けており、厳しい事業環境を考えると、M&Aも事業承継の選択肢の1つではないかと感じ始めている。

【資産承継について】
 Aさんは、仮に長女Cさんが後継者となった場合に、自身の資産承継について、長女Cさんと長男Dさんの双方が納得感を得られるよう、何らかの準備をしておきたいと考えている。

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
 1.現預金            : 1億円(役員退職金は考慮していない)
 2.X社株式           : 2億9,700万円
 3.自宅
 ①土地(200㎡)         : 6,000万円
 ②建物              : 2,300万円
 4.Ⅹ社本社兼店舗土地(300㎡) : 1億2,000万円(注)
 合計               : 6億円
※Aさんの相続に係る相続税額は、約1億7,300万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。
(注)X社は土地の無償返還に関する届出書をAさんと連名で税務署に提出し、Aさんに通常の地代を支払っている。
【X社の概要】
資本金:3,000万円   会社規模:中会社の大   従業員数:50人   配当:実施していない
売上高:10億円   税前利益:5,000万円  純資産:4億円
株主構成(発行済株式総数6万株):Aさん90%、妻Bさん10%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額5,000円/株、純資産価額10,000円/株

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定1級実技試験(資産相談業務)

本試験の概要と傾向


難易度・受験生目線の対策方法

非上場会社の多様な事業承継手法(親族内承継・M&A・従業員持株会)と、親族間の円滑な資産承継をテーマとした設例です。親族内と社外(M&A)の比較に加え、持株会の仕組みなど実務的な選択肢が多く、相談者の状況に合わせた柔軟な整理が必要となります。

受験対策としては、今回の目玉である従業員持株会やM&Aのメリット・デメリットを整理しておくことが最優先です。また、長女が承継する場合に備え、長男との不公平を解消するための代償分割や遺言の活用を押さえましょう。さらに、無償返還の届出書が提出されている本社土地について、特定同族会社事業用宅地等として小規模宅地等の特例が適用できるかといった定番の税務論点を確実に仕上げておくことが得点への近道です。

本設例の関連テーマ

「FPキャンプ1級実技試験コース」を受講されている方は、下記の論点について動画を通してしっかり学んでおきましょう。

相続の基礎④ 遺言の活用‐1 遺言の種類と留意点
相続税対策① 小規模宅地の特例‐1 概要と居住用宅地等
相続税対策② 小規模宅地の特例‐2 事業用宅地等
法人の承継対策④ 法人版事業承継税制
法人の承継対策⑥‐1 事業承継の種類①(親族内承継と従業員承継)
法人の承継対策⑥‐2 事業承継の種類②(M&A)

得点のカギとなる論点

設例読みの段階で、想定される質問として考えておくべき論点は以下のポイントです。

・従業員持株会のメリット・デメリットを整理したうえで仕組みについて知りたいと思っている点
・事業承継の方法について悩んでいる点
・子供たちの円滑な遺産分割のために、何を準備すればよいかわからない点
・見込み相続税額が高額である点

またこれらに加えて、Part1特有の王道質問への回答も考えておく必要があります。

1級実技試験の王道質問と、それに対する備え方、考え方については、こちらの記事をご覧ください。
partⅠ対策:何を質問すべきかが見えてくる-ポイントABCの思考法

各質問事項と検討のポイント

それでは各質問事項に対する提案のポイントと、知っておくべき知識について解説していきます。

なお実際の試験で問われた細かな論点や質問事項などは、この後の「面接試験の想定応答集」で紹介しておりますので、本章では省略します。

論点1 従業員持株会

提案のポイント

・従業員持株会を通して、オーナーが持つと高く評価される株式を、低く評価されやすい持株会へ移す

解説

本設例では、これまでの試験ではあまり問われることのなかった従業員持株会について問われています。出題頻度は高くないものの、本記事を通して会社側・従業員側のメリットとデメリットを整理しておきましょう。

メリットデメリット
会社・オーナー側自社株対策経営権の分散
従業員側モチベーション向上 
資産形成の手段
資産の流動性が低下する

会社側のメリット

従業員持株会とは、従業員が毎月の給与や賞与などから一定額を拠出し、その資金をもとに自社株式を継続的に取得する仕組みです。従業員の財産形成を支援する福利厚生制度としての側面がありますが、非上場会社では、オーナー経営者が保有する自社株式の一部を移転する受け皿として使われることもあります。

ここで注意したいのは、従業員持株会が取得する株式が「どこから来るのか」という点です。方法としては、新株発行や自己株式の処分も考えられますが、本設例のように自社株対策が問題となっている場面では、Aさんなど既存株主が保有している株式の一部を、従業員持株会に譲渡する方法が中心になります。

本設例では、AさんがX社株式6万株のうち90%、つまり5万4,000株を保有しています。Aさんは同族株主であり、X社は中会社の大に該当するため、Aさんの保有株式は類似業種比準方式と純資産価額方式の併用方式で評価されます。

具体的には、1株当たりの評価額は次のようになります。
類似業種比準価額5,000円×90%+純資産価額10,000円×10%5,500円

したがって、Aさんが保有する5万4,000株は、相続税評価額で2億9,700万円と高額になります。このままAさんに相続が発生すると、高く評価される自社株式がそのまま相続財産に含まれることになります。

一方、従業員持株会は会社を支配する立場の株主ではなく、通常は同族株主以外の少数株主として位置づけられます。そのため、従業員持株会が取得する株式については、原則的評価方式ではなく、配当還元方式で評価される場面が出てきます。

つまり、Aさんが保有していると高く評価される株式の一部を、従業員持株会という少数株主側に移転することで、Aさんの保有株式数を減らし、将来の相続財産に含まれる自社株式を圧縮する効果が期待できます。これが、従業員持株会が自社株対策となる理由です。

会社側のデメリット

従業員持株会を設立すると、会社関係者に株式を持たせることができる一方で、株主構成は複雑となります。また、持株会の保有割合が高くなると、経営の安定にも支障が出る可能性があります。

従業員側のメリット

従業員側のメリットとしては、1,000円単位などの少額から手軽に自社株投資を始められ、会社から支給される奨励金(上乗せ資金)によって極めて有利に資産形成を行える点が挙げられます。また、業績向上が自身の配当増や保有資産価値の増加に直結するため、従業員の経営参画意識やモチベーション向上に大きく寄与します。

従業員側のデメリット

一方で、デメリットとして、自身の給与所得と投資資産の双方が勤務先1社に依存する資産の集中リスクを負うことになります。特に、本件のような非上場企業においては市場が存在しないため、在職中に自由に売却することが著しく困難であり、原則として退職時まで現金化できないという極めて低い流動性を正しく認識しておく必要があります。

論点2 事業承継方法

提案のポイント

法人の事業承継方法のそれぞれのメリット・デメリットの整理
法人版事業承継税制の活用

解説

事業承継の種類

本件において、Aさんは親族への承継だけでなく、M&Aも含めた選択肢の中から悩んでいることが伺えるため、それぞれのメリットやデメリットをきちんと整理し、伝えることが大切です。

事業承継の種類には、親族内承継従業員承継M&Aの3点があります。

親族内承継とは、現経営者の子をはじめとした親族への承継のことを指し、従業員承継とは、「親族以外」の従業員への承継のことを指します。一方で、M&Aとは、社外の第三者への株式譲渡や事業譲渡による承継方法です。

それぞれのメリット・デメリットは以下の通りです。

事業承継税制の要件

法人版事業承継税制とは、一定の要件を満たすことで、後継者が贈与または相続により非上場株式等を取得した場合に、贈与税・相続税の納税が猶予され、将来的には免除される可能性がある制度です。

事業承継税制の期限は、特例承継計画の提出は2027年9月30日まで、株式の承継(贈与または相続)は2027年12月31日までとなります。

サトシ講師

特例承継計画の提出期限は2026年度法改正で延長された部分ですので、しっかりとチェックしておきましょう。

本特例を利用するために、先代経営者(贈与者)と後継者(受贈者)側でそれぞれ以下の要件があります。

【先代経営者の要件】
①会社の代表者の経験があったこと
②贈与・相続直前に50%超の議決権を有する筆頭株主であったこと
③贈与後において代表取締役ではないこと

【後継者の要件】
18歳以上で代表者であること
②贈与・相続直前にその会社の役員であること
③贈与または相続を受けることで、会社の筆頭株主になること
※特例措置においては、後継者は親族である必要はない。

論点3 円滑な資産承継方法

提案のポイント

・事業を承継しない長男Dへ代償分割による代償金の支払い
・遺留分に配慮した遺言の作成
・遺留分に関する民法の特例の利用

解説

本件では、Aさんの資産に占めるX社関連資産の割合が高いため、長女Cさんに事業を承継させると、Cさんと長男Dさんの間で遺産分割に偏りが生じる可能性があります。

そのため、CさんがX社株式や本社兼店舗土地などの事業用資産を取得し、Dさんには金銭を交付する代償分割を検討します。代償金の原資としては、Aさんを被保険者、Cさんを死亡保険金受取人とする生命保険の活用が考えられます。

また、Aさんが遺言書を作成し、財産の承継先を明確にしておくことも重要です。ただし、Dさんの遺留分に配慮する必要があるため、CさんにX社株式を集中させる方法として、遺留分に関する民法の特例のうち、除外合意の活用も検討します。

①代償分割

代償分割とは、遺産を特定の相続人が取得し、その代償として他の相続人に金銭や財産を交付する方法です。今回のケースでは、長女CさんがX社株式等を取得する代わりに、長男Dさんに対して、現金等を支払うという形になります。

また、代償分割を行う際は、遺産分割協議書に「代償分割である」旨を明記しておくことが重要です。記載が不十分な場合、税務上は代償分割ではなく単なる財産移転と判断され、贈与税課税の対象とされる恐れがあります。

しかし、一般的に代償金は高額になることが多いため、代償分割を行う際には、代償金の用意の方法にも注意する必要があります。代償金の用意方法としては、生命保険の活用が挙げられます。

死亡保険金は遺産分割の対象とならず、受取人固有の財産として速やかに受け取ることができます。

本件では、長女CさんがX社株式を承継し、長男Dさんへ代償金を支払う可能性があるため、生命保険金の受取人を長女Cさんとすることも有効です。

②:遺言の作成

より円滑な遺産分割を行うために、遺留分に配慮した遺言書を作成することを提案します。

遺言書には、つぎの3種類があります。

・自筆証書遺言
・公正証書遺言
・秘密証書遺言

公正証書遺言は、「無効リスクが低い」「紛失・改竄リスクが低い」というメリットがある一方で、財産額が大きいほど作成費用が高額になる点や、証人2名が必要となる点がデメリットです。

本件では、Aさんの所有財産が高額であるため、公正証書遺言の費用が高額になる可能性があります。
そのため、自筆証書遺言の作成を提案するという整理になります。

また、事業承継のために長女に株式を集中させた結果、Dさんの不足分が遺留分を下回ると、Dさんから遺留分侵害額請求を受けるリスクがあるため、遺留分を考慮した遺言書を作成することが重要です。

③遺留分に関する民法の特例の特例

より円滑な事業承継を図るために、遺留分に関する民法の特例の活用も検討します。

遺留分に関する民法の特例には、主に除外合意固定合意があります。除外合意は、後継者が取得した自社株式等を遺留分算定の基礎財産から除外する合意であり、固定合意は、遺留分算定の基礎財産に算入する価額を合意時の価額に固定する合意です。

本件では、CさんにX社株式を集中させることが問題となっているため、Dさんの遺留分侵害額請求リスクを抑える方法として、除外合意の活用を検討することになります。

なお、この特例を利用するには、推定相続人全員で合意書面を作成したうえで、合意日から1か月以内に後継者が経済産業大臣へ確認申請を行い、その確認を受けた日から1か月以内に家庭裁判所の許可を受ける必要があります。

論点4 相続税対策

提案のポイント

・小規模宅地等の特例の活用を提案

解説

本件では、Aさんの所有財産の合計が約6億円、見込み相続税額は約1億7,300万円と試算されており、相続税負担が大きい点が重要な問題となっています。

この相続税負担を軽減するための有効な対策として、小規模宅地等の特例の活用が考えられます。

<各宅地用の限度面積と減額割合>
【特定居住用宅地等】330㎡まで80%減額
【貸付事業用宅地等】200㎡まで50%減額
【特定事業用宅地等】400㎡まで80%減額

① 自宅土地について(特定居住用宅地等)
自宅土地は200㎡であるため、要件を満たせば、特定居住用宅地等として自宅土地の全体につき、小規模宅地の特例による80%の評価減を適用することができます。

しかし、誰が相続してもこの特例を適用できるわけではない点に注意が必要です。
本設例の推定相続人は、妻Bさんと長女Cさん、長男Dさんの3人ですが、特定居住用宅地等として特例を適用できるのは、妻Bさんが相続した場合のみです。

サトシ講師

サトシ講師のワンポイント
CさんとDさんはAさんと同居しておらず、Aさんには配偶者である妻Bさんがいるため、いわゆる家なき子特例の適用もありません。

② X社本社兼店舗土地について(特定同族会社事業用宅地等)
X社本社土地(300㎡)については、後継者である長女CさんがX社を承継し、引き続き事業を継続することを前提とすれば、特定同族会社事業用宅地等として小規模宅地等の特例の適用が考えられます。

本件の本社土地は300㎡であるため、土地の全ての部分について80%評価減の適用余地があります。

実際の面接試験の想定応答集

それでは、上記の質問事項と知識の整理を踏まえたうえで、実際に試験会場で面接官から行われた質問を再現した、想定応答集をご覧ください。

想定応答集の注意点

  • 本想定応答集は、金財実施のFP1級実技試験を実際に受験した「FPキャンプ1級実技コース」受講生のアンケ―トに基づき、FPキャンプ講師陣が実際の面接試験のやりとりを再現したものです。
  • 「FPキャンプ1級実技コース」は、1級実技試験受験生の36%が利用し、利用者数は各試験ごとに180名以上となっています。本想定応答集では、大量のアンケートデータを集計し、試験機関が想定されていると思われる王道の質問の流れをご紹介しています。
  • 記事の都合上、本想定応答集は、実際に行われた質問を一言一句再現したものではありません。面接官や本番試験の解答の流れによって、異なる質問が行われているケースもございます。
  • 本想定応答集の回答は、FPキャンプ講師陣が考える模範解答を掲載しております。試験機関側が模範解答としたものではありません。また、この通りに回答しなければならない得点が得られないというものでもありません。

設例の顧客の相談内容および問題点

(受検生)と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

以降の内容につきましては、FPキャンプ1級きんざい実技コースをご利用の方のみご覧いただけます。

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