本記事の構成
本記事は以下の内容で構成されています。
・実際の設例
・本試験の概要と傾向
・得点のカギとなる論点
・各質問事項と検討のポイント
・実際の面接試験の想定応答集
実際の設例
それではまず、今回の設例を読んでいきましょう。
●設例●
首都圏近郊のK市の北端地域(市街化調整区域)にある甲土地(地積18,000㎡)は、2024年3月に廃校となった市立小学校の跡地であり、現在は未利用地である。甲土地が所在する地区は、平坦地に形成された旧来からの農家住宅地域である。
甲土地の所有者はAさん(82歳)を含めて5人(画像参照)で、小学校開校時(1975年)から甲土地をK市に賃貸していた。所有者の5家はいずれも同じ地区内の古くからの農家であり、つながりも深い。最近は代が替わり若い世代も混じってきたため、長老格で甲-1土地の所有者であるAさんが、地権者の総意によりまとめ役を担っている。
小学校の廃校に伴い、甲土地は2024年9月末に賃貸借契約に基づき更地化され、Aさんたちに無償で返還された。解約時点の地代は、年間1,200円/㎡(継続賃料)であり、全員同額であった。固定資産税は甲土地全体で一体評価とされ、年間負担額は300円/㎡である。また、甲土地の一体としての現在の価格は、不動産鑑定士により36,300円/㎡と評価されている。
甲土地の返還後、Aさんら地権者は全員で話し合い、新たな借り手を見つけて賃貸を継続することで合意した。そこで、大手不動産会社のK支店に依頼し、新たな借り手を探してもらっていたが、1年半経っても見つからなかった。甲土地の立地や規模を考慮すると、主に、物流倉庫、社会福祉関連施設、医療関係施設、学校等が候補であるが、最寄駅から距離があることや、周辺環境、道路条件が悪いことなどからなかなか借り手が見つからないとのことである。また、有力と思われた物流倉庫も開発許可を得るのが難しく、手を出しにくいとのことだった。そんななか、大手物流会社のX社から、開発許可が不要である特別積合せ貨物の配送センター用地として、甲土地を借りたいとの申出があった。
【X社からの申出】
・形式は事業用定期借地権、期間30年、賃料は有効面積当たり年間1,800円/㎡とする。
・西側、南側の道路を幅員9mにしたいので用地の提供を無償でお願いしたい。
・地区外の道路用地(右頁参照)買収費および工事費用の合計で1億2,000万円が見込まれてお
り、これを負担してもらいたい。ただし、契約時に当社で1億2,000万円を保証金として無利息
で貸し付けるので、30年間で均等返済(年間返済額400万円)していただきたい。
この申出に対して前向きな意見が多かったが、唯一甲-2土地の所有者であるBさん(46歳)が猛反発した。Bさんの主張は「土地を無償で減らされるのは嫌だ。その分賃料収入が減るのも納得できない。そもそも道路沿いの土地と無道路地の賃料が同額というのもおかしい」というものだった。Bさんの主張にはAさんも同感する部分がある。
Aさんはこの話を進めたいと思っているが、このような状況で、地権者間の合意を得るにはどのようにしたらよいか、FPであるあなたのもとに相談に訪れた。


出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定1級実技試験(資産相談業務)2026年
本試験の概要と傾向
難易度・受験生目線の対策方法
複数の地権者が所有する大規模な土地について、事業用定期借地権を活用した土地活用と地権者間の利害調整をテーマとした設例です。廃校跡地という特殊な土地に対し、物流会社から配送センター用地としての提案がなされており、賃料だけでなく、道路拡幅のための土地提供や道路整備費の負担などを含めて提案内容を検討する必要があります。
受験生としては、まず事業用定期借地権の契約期間や契約方法などの基本的な仕組みを押さえておきたいところです。また、本設例では土地価格、賃料、固定資産税など具体的な数値が示されているため、NOI(純営業収益)やNOI利回りを算出し、土地活用の収益性を客観的に判断する視点も重要になります。NOI利回りは「NOI÷不動産価格」で求めるという基本を押さえ、単なる表面上の賃料収入ではなく、固定資産税等を控除した実質的な収益性を比較できるようにしておく必要があります。
さらに、道路拡幅による無償の土地提供や、接道条件の異なる土地に一律の賃料を設定することへの不公平感も大きな論点です。そのため、各土地の収益性や土地価値、提供面積などを踏まえた賃料・費用負担の調整方法を検討し、地権者間の公平性を確保しながら合意形成を図る視点まで持っておくと対応しやすい設例です。
得点のカギとなる論点
PartⅠと異なり、PartⅡでは質問事項が記載されているため、これらについて設例読みの段階で、想定される質問を整理しておきましょう。
FPへの質問事項
1.Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要
ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
①Aさんから直接聞いて確認する情報
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報
2.都市計画法上、市街化調整区域内にはどのような建物の建築が可能ですか。市街化調整区域内におけ
る開発行為制限の例外について教えてください。
3.NOI利回りとはどのようなものですか。また、NOI利回りを求める算式を教えてください。
4.Bさんの意向も考慮し、地権者間の合意を得るためにはどうすればよいですか。
5.本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
なお、PartⅡの最初および最後の質問は、いずれの《設例》においても共通して出題される固定質問です。これらのいわゆる「王道質問」への備え方や考え方については、以下の記事をご参照ください。
PartⅡ対策 固定質問3つへの考え方
各質問事項と検討のポイント
それでは各質問事項に対する提案のポイントと、知っておくべき知識について解説していきます。
なお実際の試験で問われた細かな論点や質問事項などは、この後の「面接試験の想定応答集」で紹介しておりますので、本章では省略します。
質問2 都市計画法に基づく市街化調整区域について
提案のポイント
・公益上必要な建築物の提案
解説
市街化調整区域では、市街化を抑制するため、都道府県知事の許可がなければ、原則として建物を建てることができません。
ただし、都市計画法第21条第1項において、都道府県知事の開発許可がなくとも行うことができる開発行為について記載されています。
一定の農林水産業施設や、公益上必要な施設は、市街化調整区域であっても建築することができます。
サトシ講師サトシ講師のワンポイント
知識としてこれらを暗記して試験に臨むことは厳しかったと思います。
建築物の候補に物流倉庫、社会福祉関連施設、医療関係施設、学校等と設例に記載があることから、公益性の高い建物をイメージすることができれば充分です。
質問3 NOI利回りについて
提案のポイント
・NOI利回りの計算
解説
まずはNOI利回りの計算式を確認しましょう。
計算式からもわかるように、NOI利回りは投資額に対する純利益の割合をみる指標となっています。
実際の試験では電卓で計算する時間はないと思いますが、本件におけるNOI利回りを計算してみましょう。
道路提供後の不動産の価格は
36,300円/㎡ ×16,850㎡=6億5,340万円
X社からの提案による年間賃料は
1,800円/㎡ ×16,850㎡=3,033万円
諸費用となる固定資産税は
300円/㎡ ×16,850㎡=505.5万円
ここでポイントとなるのは、道路用地買収費および工事費用の年間返済額400万円は年間諸費用に含めないという点です。400万円は負債の返済であるため、純利益の計算とは別軸で考える必要があります。
よって、NOI利回りは
(3,033万円-505.5万円)÷6億5,340万円×100=3.868…%



サトシ講師のワンポイント
NOI利回りは、投資判断の指標の一つであり、投資の考え方によって計算に用いる数値も変化します。例えば、分母である不動産価格に不動産を取得するための投資額も含めるべきという立場で考えることもできます。
その場合は道路用地買収費および工事費用1億2,000万円と、道路に無償提供した地積4,174.5万円(=36,300円/㎡ ×(18,000㎡ー16,850㎡))も分母に加算して計算します。
ただ、試験当日にこうした多角的な視点を持つことは難しいため、「いろいろな求め方があるのだな。」という参考程度で構いません。
質問4 Bさんの意向も踏まえて地権者間の合意を得るための方法
提案のポイント
・道路の無償提供を甲土地全体の共同事業とする
・賃料配分の基礎は道路提供前の面積とする
・道路沿いの土地が甲土地に寄与した価値を算出してもらう
解説
Bさんの主張には3つの問題が混在しています。
①道路沿いの土地の所有者だけ土地を無償で減らせれるのは嫌だという点
②道路を提供することで賃料収入が減るのは納得できない点
③道路沿いの土地と無道路地で賃料が同額とするのはおかしいという点
この3つはそれぞれ性質の異なる問題です。それぞれについて公平な調整を行うことができれば、Bさんの反対理由の多くを解消でき、X社との契約について地権者全員の合意形成を図りやすくなるでしょう。
道路の無償提供を甲土地全体の共同事業とする
まずは道路沿いの土地の所有者だけ土地を無償で減らされてしまう問題について考えていきましょう。
提供する道路の価値は4,174.5万円(=36,300円/㎡ ×(18,000㎡ー16,850㎡))です。
これを実際に提供するのはAさんとBさんだけです。しかし、道路が幅員9mに拡幅されることによって甲土地全体の利便性が向上し、その恩恵はCさん・Dさん・Eさんも受けます。
したがって、道路提供はAさん・Bさんだけの問題ではなく、X社への賃貸を実現するための甲土地全体の共同事業と考えるのが合理的です。
そこで、道路用地の経済的負担を道路提供前の構成割合に応じて5人で負担し、Cさん・Dさん・EさんからAさん・Bさんに清算金を支払う方法が考えられます。
これにより、道路に面しているAさん・Bさんが土地の減少を負担するという不公平を解消できます。
賃料配分の基礎は道路提供前の面積とする
次に、道路提供によってAさん・Bさんの賃料収入まで減少する問題です。
道路提供後の面積だけを基準として賃料を按分すると、Aさん・Bさんの構成割合は低下します。一方、土地を提供していないCさん・Dさん・Eさんの構成割合は相対的に上昇します。
つまり、甲土地全体の利用価値を高めるために土地を提供したAさん・Bさんの賃料が減少し、何も提供していない無道路地所有者の賃料が増加することになります。これは公平とはいいにくいでしょう。
そこで、賃料配分を検討する際の面積については、道路提供後の16,850㎡ではなく、道路提供前の18,000㎡を基礎とする方法が考えられます。
これにより、道路提供を理由としてAさん・Bさんが30年間にわたり賃料配分上の不利益を受けることを防ぐことができます。
道路沿いの土地が甲土地に寄与した価値を算出してもらう
最後に道路沿いの土地と無道路地で賃料が同額となっている問題について考えていきましょう。
甲土地が所在する地域は市街化調整区域に指定されていることもあり、道路整備等が遅れており、県道への接続条件が土地利用に大きな影響を及ぼします。 そのため、甲土地を一体で利用することにおける道路沿いの土地の寄与度は、単純な面積割合よりも大きくなっています。
この寄与度は専門家である不動産鑑定士でなければ算出することは難しいです。甲土地を一体として利用すること前提とした各土地の寄与度を算出してもらい、それに応じた賃料の按分割合に修正することで地権者全員が納得する賃料になるのではないでしょうか。
実際の面接試験の想定応答集
それでは、上記の質問事項と知識の整理を踏まえたうえで、実際に試験会場で面接官から行われた質問を再現した、想定応答集をご覧ください。
想定応答集の注意点
- 本想定応答集は、金財実施のFP1級実技試験を実際に受験した「FPキャンプ1級実技コース」受講生のアンケ―トに基づき、FPキャンプ講師陣が実際の面接試験のやりとりを再現したものです。
- 「FPキャンプ1級実技コース」は、1級実技試験受験生の36.0%が利用し、利用者数は各試験ごとに180名以上となっています。本想定応答集では、大量のアンケートデータを集計し、試験機関が想定されていると思われる王道の質問の流れをご紹介しています。
- 記事の都合上、本想定応答集は、実際に行われた質問を一言一句再現したものではありません。面接官や本番試験の解答の流れによって、異なる質問が行われているケースもございます。
- 本想定応答集の回答は、FPキャンプ講師陣が考える模範解答を掲載しております。試験機関側が模範解答としたものではありません。また、この通りに回答しなければならない得点が得られないというものでもありません。
質問1
(受検生)と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんから直接聞いて確認する情報として考えられる項目は何がありますか?
以降の内容につきましては、FPキャンプ1級きんざい実技コースをご利用の方のみご覧いただけます。
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