本記事の構成
本記事は以下の内容で構成されています。
・実際の設例
・本試験の概要と傾向
・得点のカギとなる論点
・各質問事項と検討のポイント
・実際の面接試験の想定応答集
実際の設例
それではまず、今回の設例を読んでいきましょう。
●設例●
X株式会社(製造業・非上場会社)は、Aさん(50歳)の父親Cさん(80歳)が30年前に設立した会社である。Aさんは、2020年に社長に就任し、その際に父親Cさんが所有していたX社株式について事業承継税制(特例措置・相続時精算課税制度を利用)を活用して同年中に贈与(贈与時の時価は5億6,000万円)を受けている。
X社は先代の社長である父親Cさんが特許を持つ製品を扱っていたため、長年にわたって複数の大手メーカーから安定した受注を受けてきた。しかし、数年前に20年の特許期間が満了したことや、原材料価格の上昇等への対応が遅れたこともあり、有利子負債が増え、2期連続して売上高が減少するなど、先行きは不透明な情勢にある。
そのような折、AさんのもとにM&A仲介業者が訪れ、「X社株式を譲渡する気はないか。買手企業の詳細はまだ明らかにできないが、御社もよく知っている会社で、できるだけ早く基本合意契約を結びたいと言っている。よければ今度相手方と面談する場を設けたい」との提案を受けた。業者によれば、買手企業は人材の確保を第一の目的として今回の提案を行っており、X社の社長は現状どおりAさんのままとし、お互いに助け合って事業を拡大していきたいと考えているとのことである。
【事業承継について】
親族内および社内に後継者候補となる有力な人物はおらず、Aさんは、現状のX社の業況を鑑み、X社株式の譲渡について前向きに考えているが、父親Cさんから贈与されたX社株式について、父親Cさんが生きている間に他社に譲渡することとした場合、課税関係がどのようになるのか知っておきたいと思っている。
また、現在の状況で父親Cさんが亡くなった場合、納税猶予されたX社株式の贈与税は免
除されることは知っているが、相続税の対象になるのかよくわかっていない。
【父親Cさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
1.現預金 : 1億5,000万円
2.自宅
①土地(450㎡) : 9,000万円
②建物(二世帯住宅、築20年) : 3,000万円
3.X社本社土地(500㎡) : 1億円(注)
4.賃貸アパート
①土地(200㎡) : 4,000万円
②建物(築20年、8室) : 1,000万円(年間収入約800万円)
合計 : 4億2,000万円
(注)X社は土地の無償返還に関する届出書を父親Cさんと連名で税務署に提出し、父親Cさんに通常の地代を支払っている。
【X社の概要】
資本金:4,000万円 会社規模:大会社 従業員数:80人
売上高:20億円 税前利益:3,000万円 純資産 :11億円
株主構成(発行済株式総数8万株):Aさん100%
贈与時の株式の相続税評価額:類似業種比準価額7,000円/株、純資産価額10,000円/株
※X社株式は譲渡制限株式である

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定1級実技試験(資産相談業務)
本試験の概要と傾向
難易度・受験生目線の対策方法
製造業を営む非上場会社の事業承継税制とM&Aをテーマとした設例です。すでに相続時精算課税制度と事業承継税制の特例措置を利用して自社株の贈与を受けている点が特徴で、その後に株式を第三者へ譲渡した場合や、先代経営者である父親Cさんに相続が発生した場合の課税関係を整理する必要があります。
受験生としては、事業承継税制について、単に「贈与税が猶予・免除される制度」と覚えるだけでなく、納税猶予が打ち切られるケース、猶予税額が免除されるケース、贈与者死亡時に相続税へどのように引き継がれるかまで一連の流れで押さえておくことが重要です。また、M&Aについては、後継者不在や業績悪化といった背景を踏まえ、株式譲渡のメリットだけでなく、従業員の雇用や経営者の処遇、譲渡制限株式の手続、買手企業との交渉時の留意点なども意識しておきたいところです。
さらに、父親Cさんの相続では、自宅やX社本社土地、賃貸アパートなど複数の不動産があるため、小規模宅地等の特例や土地の評価、事業用資産と相続税対策も絡めて整理しておくと対応しやすい設例です。
本設例の関連テーマ
「FPキャンプ1級実技試験コース」を受講されている方は、下記の論点について動画を通してしっかり学んでおきましょう。
得点のカギとなる論点
設例読みの段階で、想定される質問として考えておくべき論点は以下のポイントです。
・M&A実行時の課税関係について知りたい点
・現時点で父親が死亡した場合の課税関係が不明な点
・円滑な遺産分割に向けた策が必要な点
またこれらに加えて、Part1特有の王道質問への回答も考えておく必要があります。
1級実技試験の王道質問と、それに対する備え方、考え方については、こちらの記事をご覧ください。
partⅠ対策:何を質問すべきかが見えてくる-ポイントABCの思考法
各質問事項と検討のポイント
それでは各質問事項に対する提案のポイントと、知っておくべき知識について解説していきます。
なお実際の試験で問われた細かな論点や質問事項などは、この後の「面接試験の想定応答集」で紹介しておりますので、本章では省略します。
論点1 M&A実行時の課税関係
提案のポイント
・M&Aによる株式譲渡で、贈与税の納税猶予が打ち切られる
・猶予されていた贈与税と利子税の納付が必要
・非上場株式の譲渡所得に対して、20.315%の申告分離課税がかかる
解説
Aさんは2020年に父CさんからX社株式の贈与を受けた際、事業承継税制(特例措置)と相続時精算課税制度を利用しています。贈与時のX社株式の時価は5億6,000万円です。
事業承継税制は、後継者が先代経営者などから非上場株式等を贈与または相続等により取得した場合に、その株式等にかかる贈与税・相続税を猶予し、一定の要件を満たした場合に免除する制度です。
今回、Aさんは相続時精算課税制度を利用しているため、贈与税の納税猶予額は概算で、
(5億6,000万円 ー 2,500万円)× 20% = 1億700万円
となり、約1.1億円の贈与税について納税が猶予されています。
M&Aを実行した場合
AさんはM&A仲介業者からX社株式の譲渡を提案されています。Aさんが、事業承継税制の対象となっているX社株式をM&Aによって譲渡すると、贈与税の納税猶予が打ち切られます。
そのため、猶予されていた約1.1億円の贈与税を納付するとともに、利子税の納付も必要となります。
利子の取り扱い
事業承継税制では、納税猶予が打ち切られた場合、猶予されていた税額だけでなく、猶予期間に応じた利子税についても確認する必要があります。
今回、Aさんが株式の贈与を受けたのは2020年であり、すでに5年間の経営承継期間が終了しています。したがって、今回のケースでは、経営承継期間終了後の期間について利子税が算出されることになります。
株式譲渡に対する課税
さらに、M&AによってAさんがX社株式を売却すれば、株式の譲渡による譲渡所得も発生します。非上場株式の譲渡所得は申告分離課税となり、税率は20.315%です。
論点2 父C死亡時の課税関係
提案のポイント
・父Cさんが死亡した場合、納税猶予されていた贈与税は免除される
・事業承継税制の適用を受けたX社株式は、相続により取得したとみなされ、相続税の課税対象となる
・一定の要件を満たせば、相続税についても事業承継税制による納税猶予を受けることができる
・M&Aを実行した場合は、相続税にかかる事業承継税制へ切り替えることはできない
解説
Aさんは父CさんからX社株式の贈与を受け、事業承継税制による贈与税の納税猶予を受けています。その後、贈与者である父Cさんが死亡すると、猶予されていた贈与税は免除されます。
一方、贈与されたX社株式は、父Cさんの死亡時に相続または遺贈により取得したものとみなされ、相続税の課税対象となります。つまり、贈与税は免除されますが、X社株式については改めて相続税の課税関係が生じることになります。
相続税計算上のX社株式の価額
父Cさんの死亡により相続税を計算する際、X社株式については、父Cさんの死亡時ではなく、Aさんが贈与を受けた時点の価額をもとに相続税の課税価格へ加算します。
本設例では、2020年の贈与時におけるX社株式の時価が5億6,000万円であるため、これを相続税の課税価格に加算して相続税を計算することになります。
ただし、Aさんが父Cさんの死亡後もX社の事業を継続するなど、一定の要件を満たしている場合には、相続税についても事業承継税制の適用を受け、納税猶予を受けることができます。
M&Aを実行した後に父Cさんが死亡した場合
Aさんが父Cさんの死亡前にM&Aを実行し、事業承継税制の対象となっているX社株式を第三者へ譲渡した場合には、贈与税の納税猶予が打ち切られます。そのため、その後に父Cさんが死亡したとしても、X社株式について相続税に係る事業承継税制の適用を受けることはできません。
つまり、「株式を保有したまま父Cさんが死亡する場合」と「父Cさんの生前にM&Aを実行する場合」では、税務上の取り扱いが大きく異なるということです。
論点3 円滑な遺産分割に向けた策
提案のポイント
・贈与済みのX社株式を考慮し、妹の遺留分に配慮した遺産分割対策を検討する
・妹を死亡保険金受取人とする生命保険への加入を検討する
・死亡保険金の相続税の非課税限度額を活用する
解説
父Cさんの法定相続人は、妻Bさん、Aさん、妹の3人です。Aさんはすでに父Cさんから5億6,000万円のX社株式の贈与を受けています。一方、父Cさんが現在所有している財産は、現預金や不動産など合計4億2,000万円であるため、妹との間で遺留分をめぐる問題が生じる可能性があります。
遺留分を算定する際には、父Cさんの現在の財産4億2,000万円だけでなく、Aさんへ贈与済みのX社株式5億6,000万円も考慮するため、本設例では約10億円が遺留分算定の基礎となる財産として考えられます。
なお、X社株式について事業承継税制の適用を受けていても、除外合意をしていない限り、当然に遺留分算定の基礎となる財産から除外されるわけではありません。
生命保険を活用した対策
妹が取得できる財産を確保する方法として、父Cさんが生命保険に加入し、死亡保険金の受取人を妹とする方法が考えられます。死亡保険金は原則として受取人固有の財産となるため、遺産分割の対象とならず、妹が直接受け取ることができます。
また、相続人が受け取る死亡保険金には相続税の非課税限度額があります。本設例の法定相続人は3人であるため、
500万円 × 3人 = 1,500万円
が非課税限度額となります。
この生命保険の非課税枠を利用することで、現金のまま相続する場合と比べて相続税の負担を抑えながら、妹に財産を残すことができます。
実際の面接試験の想定応答集
それでは、上記の質問事項と知識の整理を踏まえたうえで、実際に試験会場で面接官から行われた質問を再現した、想定応答集をご覧ください。
想定応答集の注意点
- 本想定応答集は、金財実施のFP1級実技試験を実際に受験した「FPキャンプ1級実技コース」受講生のアンケ―トに基づき、FPキャンプ講師陣が実際の面接試験のやりとりを再現したものです。
- 「FPキャンプ1級実技コース」は、1級実技試験受験生の36%が利用し、利用者数は各試験ごとに180名以上となっています。本想定応答集では、大量のアンケートデータを集計し、試験機関が想定されていると思われる王道の質問の流れをご紹介しています。
- 記事の都合上、本想定応答集は、実際に行われた質問を一言一句再現したものではありません。面接官や本番試験の解答の流れによって、異なる質問が行われているケースもございます。
- 本想定応答集の回答は、FPキャンプ講師陣が考える模範解答を掲載しております。試験機関側が模範解答としたものではありません。また、この通りに回答しなければならない得点が得られないというものでもありません。
設例の顧客の相談内容および問題点
(受検生)と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。
以降の内容につきましては、FPキャンプ1級きんざい実技コースをご利用の方のみご覧いただけます。
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