本記事の構成
本記事は以下の内容で構成されています。
・実際の設例
・本試験の概要と傾向
・得点のカギとなる論点
・各質問事項と検討のポイント
・実際の面接試験の想定応答集
実際の設例
それではまず、今回の設例を読んでいきましょう。
●設例●
地方都市のN市に住むAさん(65歳)は、個人で不動産賃貸業を営んでいる。毎年の不動産所得の金額は3,000万円を超えており、所得税・住民税の負担が大きいことに頭を悩ませている。Aさんの家族は妻Bさん(63歳)、長女Cさん(37歳)、長男Dさん(35歳)、二女Eさん(25歳)の4人である。
会社員である長女Cさんは、夫と子2人(10歳・7歳)の4人で東京郊外の分譲マンションに暮らしている。今後、子どもの教育費負担が増えることから、Aさんからの資金援助を期待している。
大手商社に勤務している長男Dさんは、Aさん夫婦と同居しており、今年の秋に結婚する予定である。以前から長男Dさんは、「将来のことを考えると、俺が父さんや母さんのそばで暮らしたほうがよいと思っている」と言っており、Aさんは、自宅を二世帯住宅に建て替えて、長男Dさん夫婦と同居する方法を検討している。また、自宅の敷地が大きいことから、その敷地内に長男Dさん夫婦のための新居を建ててあげてもよいとも考えている。Aさんは、建築資金を全額負担するつもりでいるが、二世帯住宅と別棟の新居のどちらが望ましいのか、建物の名義は誰にするのがよいのかなど、判断がつかないでいる。
二女Eさんは、3年前に米国に渡り、現地の大学に留学しており、米国での就職を検討している。二女Eさんは、現在、Aさんが海外投資を兼ねて購入したマンションの一室に無償で居住している。なお、二女Eさんは米国籍を取得していない。Aさんは二女Eさんが独立するまでこの部屋に住まわせ、その後は他人に貸し出そうと考えている。
Aさんは最近、体力の衰えを感じることが多くなり、そろそろ将来の相続のことを考えて、遺言書の作成など、できることから準備を始めたいと思っている。おおまかな考えとして、現預金は均等に相続させ、国内の賃貸物件は妻Bさんと長男Dさんに、米国のマンションは二女Eさんに相続させればよいと思っているが、米国で所有している不動産が相続時にどのように取り扱われるのかなど、わからないことも多い。また、長女Cさんには教育資金の援助をしたいと考えている。
このような状況のもと、Aさんは、資金援助や自身の相続について、FPであるあなたにアドバイスを求めている。
【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
1.現預金 : 1億3,000万円
2.自宅
①土地(500㎡) : 1億2,000万円
②建物(築30年) : 500万円
3.賃貸マンション
①土地(500㎡) : 1億5,000万円
②建物(築20年) : 1億円(年間収入約2,900万円)
4.賃貸アパート
①土地(300㎡) : 8,000万円
②建物(築10年) : 2,000万円(年間収入約840万円)
5.米国マンション(一室): 3,000万円
合計 : 6億3,500万円
※Aさんの相続に係る相続税額は、約1億7,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定1級実技試験(資産相談業務)
本試験の概要と傾向
難易度・受験生目線の対策方法
個人で不動産賃貸業を営むAさんの所得税対策や子どもへの資金援助、相続対策をテーマとした設例です。二世帯住宅の建築や長女Cさんへの教育資金援助など、親から子への資金移転に関する論点に加え、米国不動産を所有していることから、国外財産の相続や海外居住者に関する税務についても問われる構成となっています。
受験生としては、二世帯住宅と別棟住宅の違いや建築資金を親が負担した場合の贈与税、住宅取得等資金の贈与など、住宅・贈与に関する基本的な課税関係を整理しておくことが重要です。また、米国不動産については細かな国際税務まで完璧に答えることを目指すよりも、日本の相続税の課税対象となる範囲、国外財産の評価、外国税額控除などの基本論点を押さえておくと対応しやすいでしょう。遺言による財産承継についても、Aさんの希望だけでなく、各相続人への公平性や遺留分まで意識して回答できるようにしておきたい設例です。
本設例の関連テーマ
ここで、しっかりと基礎知識を付けておくことが重要でしょう。
講義内では、本論点についてしっかり解説しておりますので、ここの知識を定着させていたかどうかが、本試験での回答力となったと言えるでしょう。
FPキャンプ内でも、これらの論点に関してはしっかりと解説しております。
「FPキャンプ1級実技試験コース」を受講されている方は、上記の観点テーマからしっかり学んでおきましょう。
得点のカギとなる論点
設例読みの段階で、想定される質問として考えておくべき論点は以下のポイントです。
またこれらに加えて、Part1特有の王道質問への回答も考えておく必要があります。
1級実技試験の王道質問と、それに対する備え方、考え方については、こちらの記事をご覧ください。
partⅠ対策:何を質問すべきかが見えてくる-ポイントABCの思考法
各質問事項と検討のポイント
それでは各質問事項に対する提案のポイントと、知っておくべき知識について解説していきます。
なお実際の試験で問われた細かな論点や質問事項などは、この後の「面接試験の想定応答集」で紹介しておりますので、本章では省略します。
論点1 所得税・住民税の負担が大きい点について
提案のポイント
・個人事業の法人化を提案
・不動産所有方式の提案
解説
個人事業の法人化を提案
所得税の負担について、個人事業を法人化させるメリットは主に3点あげられます。
①法人税率の適用について
所得税では累進課税が採用されているため、課税所得が約900万円以上となると税率が33%となります。一方で、法人税の場合は一律で税率が23.2%となります。Aさんの不動産所得の金額は3,000万円を超えていることから、法人成りした方が税率が抑えられることがわかります。
②親族を役員にすることによる所得税の分散効果について
Aさんの親族である妻Bさん、長女Cさん、長男Dさん、二女Eさんを法人の役員にして役員給与を支給することで、Aさんの所得を分散し、所得税の税率を下げることができます。
③給与所得控除の適用による所得税の軽減
親族を役員にすることで、親族それぞれについて、給与所得控除の適用を受けることができるため、課税所得金額を減らすことが期待できます。
そのほかにも、役員退職金の支給など経費を幅広く損金算入できるといったメリットもあります。
不動産所有方式の提案
Aさんのように不動産賃貸業を営む個人が法人を設立する場合、不動産管理会社の形態は、主に次の3つのパターンが考えられます。
不動産所有方式は、資産管理会社に不動産の所有権を移転することで、借主からの家賃収入は全て資産管理会社が受け取り、個人は役員として報酬を貰う方式 です。
サブリース方式は、個人が所有する物件を資産管理会社に一括で貸し付け、会社は借主に転貸(サブリース)する方式 です。
管理委託方式は、所有物件の管理を資産管理会社に業務委託し、オーナーが管理委託手数料を 支払う方式です。
3つの形態それぞれの移転できる所得の額を図示すると以下のようになります。

今回、Aさんは所得税・住民税の負担を軽減することを目的としているため、賃料収入の100%を法人に移転できる不動産所有方式を提案します。
なお、不動産所有方式の場合、法人に潤沢な資金が用意できないのであれば、土地は個人名義のままで、建物のみを法人へ売却することが望ましいとされます。
建物のみを法人名義にすることで、買取り資金や、土地の譲渡所得、登録免許税などの移転にかかるコストを減らすことができます。
注意点として、土地を無償で貸し付けると借地権の認定課税が発生するため、「土地の無償返還に関する届出書」を提出 、または、固定資産税を超える地代の支払いが必要となります。
論点2 新居の形態について
提案のポイント
・二世帯住宅の提案
・建物の名義をAさんとする
解説
二世帯住宅の提案
Aさんの自宅の土地は、長男Dさんが相続時には特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例を適用することを想定したうえで、提案を行います。
Aさんは新居について、二世帯住宅か別棟にするかで悩んでいますが、別棟にすると、別居扱いになり、長男Dさんは同居親族として小規模宅地等の特例を受けることができなくなってしまいます。
また、二世帯住宅にする場合には、登記時に区分所有登記を避ける必要があります。区分所有登記してしまうと、Aさんと長男Dさんは別居とみなされてしまい、小規模宅地等の特例の適用を受けることができなくなります。
建物の名義をAさんとする
Aさんは、建築資金を全額負担するつもりとあることから、建物の名義はAさんとするべきです。
仮に建築資金の全額をAさんが支払い、建物の名義をA・Dの共有名義あるいはDさんの単独名義にした場合、AさんからDさんへの建物の贈与があったとみなされ、贈与税の課税リスクが伴います。
論点3 米国不動産に係る相続税の課税関係
提案のポイント
・相続税の納税義務者の区分と外国税額控除
解説
相続税の納税義務者は以下の4つに区分されます。それぞれの区分に基づいて課税される財産の種類も異なります。
細かい論点になるので納税義務者の種類についての詳しい説明は省きます。押さえておくべきポイントは、被相続人と相続人のどちらかが日本国内に住所を有している場合は国内外すべての財産が相続税の課税対象となります。相続人の住所が国内にある場合は居住無制限納税義務者、国内に住所がない場合は非居住無制限納税義務者と呼びます。
今回、二女Eさんの住所はアメリカとなっていますが、Aさんの住所が日本国内にあるため、非居住無制限納税義務者として、国内財産・国外財産のすべてに課税されます。
また、米国マンションについては、アメリカ国内で相続税が課税される可能性も考慮しなければなりません。アメリカで相続税が課税され、日本国内でも相続税が課税される場合は、国際的二重課税となってしまいます。これを回避する目的で、外国税額控除の適用が認められています。
論点4 教育資金の援助
提案のポイント
・扶養義務者からの生活費及び教育費の贈与の非課税
解説
2026年3月31日までは、30歳未満の者が、直系尊属から教育資金を一括贈与された場合には、1,500万円まで贈与税が非課税となっていましたが、本制度は廃止となりました。
そのため、教育資金を一括で贈与する場合には贈与税が課税される可能性があります。
対処法として考えられるのは、資金を一括で贈与するのではなく、毎年必要な額だけ資金を孫に贈与する方法です。相続税法第21条の3第1項第2号では扶養義務者間の通常必要な教育費の贈与は非課税となります。毎年、孫の学費を祖父が支払う程度の贈与であれば、贈与税は課税されません。
サトシ講師サトシ講師のワンポイント
相続税法第21条の3第1項第2号では、贈与税に課税されない財産について「扶養義務者相互間において生活費または教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち、通常必要と認められるもの 」と定めています。
1年間の学費であれば、『通常必要と認められるもの』として贈与税が非課税になります。
論点5 見込み相続税額が高額
提案のポイント
・小規模宅地等の特例の提案
解説
本件では、Aさんの所有財産の合計が約6億3,500万円、見込み相続税額は約1億7,000万円と試算されており、相続税負担が大きい点が重要な問題となっています。
この相続税負担を軽減するための有効な対策として、小規模宅地等の特例の活用が考えられます。
Aさんの所有する土地は、特定居住用宅地等と貸付事業用宅地等の2種類となっています。特定居住用宅地等と貸付事業用宅地等は完全併用することができず、適用面積の調整が必要になるため、1㎡あたりの減額される金額を算出して、小規模宅地等の特例を適用する優先順位を算出する必要があります。
① 自宅土地について(特定居住用宅地等)
Aさんの自宅は、「特定居住用宅地等」として小規模宅地等の特例の適用を検討できます。
自宅土地の面積は500㎡、相続税評価額は1億2,000万円 です。
1㎡あたりの金額に適用面積の調整をするための係数(×2.64)を乗じて比較するため、
1億2,000万円÷500㎡×2.64=63.36
② 賃貸マンション・賃貸アパートの土地について(貸付事業用宅地等)
賃貸マンションの土地(500㎡)と賃貸アパートの土地(300㎡)についても、「貸付事業用宅地等」として小規模宅地等の特例の適用を検討できます。
賃貸マンションの土地の面積は500㎡、相続税評価額は1億5,000万円 です。
1㎡あたりの金額に適用面積の調整をするための係数(×1.00)を乗じて計算すると、
1億5,000万円÷500㎡×1.00=30
賃貸アパートの土地の面積は300㎡、相続税評価額は8,000万円 です。
1㎡あたりの金額に適用面積の調整をするための係数(×1.00)を乗じて計算すると、
8,000万円÷300㎡×1.00=26.66…



サトシ講師のワンポイント
試験本番にゆっくりと計算している時間はないので、貸付事業用宅地等の1㎡あたりの単価が極端に高額でない限りは、特定居住用宅地等や特定事業用宅地等に優先的に特例を適用してしまって問題ありません。
なお、適用面積を調整するための優先順位を厳密に求める場合には、1㎡あたりの単価に、特定居住用宅地には係数2.64(=330㎡×80%÷100)、特定事業用宅地等には係数3.2(=400㎡×80%÷100)、貸付事業用宅地等には係数1.0(=200㎡×50%÷100)を乗じる必要があります。
よって、相続税の減額効果が最も大きい土地は自宅土地だということがわかります。
自宅土地の面積は200㎡であり、特例の適用対象の上限は330㎡までとなります。
そのため、自宅土地の330㎡までの部分について80%の評価減を受けることができます。
実際の面接試験の想定応答集
それでは、上記の質問事項と知識の整理を踏まえたうえで、実際に試験会場で面接官から行われた質問を再現した、想定応答集をご覧ください。
想定応答集の注意点
- 本想定応答集は、金財実施のFP1級実技試験を実際に受験した「FPキャンプ1級実技コース」受講生のアンケ―トに基づき、FPキャンプ講師陣が実際の面接試験のやりとりを再現したものです。
- 「FPキャンプ1級実技コース」は、1級実技試験受験生の36%が利用し、利用者数は各試験ごとに180名以上となっています。本想定応答集では、大量のアンケートデータを集計し、試験機関が想定されていると思われる王道の質問の流れをご紹介しています。
- 記事の都合上、本想定応答集は、実際に行われた質問を一言一句再現したものではありません。面接官や本番試験の解答の流れによって、異なる質問が行われているケースもございます。
- 本想定応答集の回答は、FPキャンプ講師陣が考える模範解答を掲載しております。試験機関側が模範解答としたものではありません。また、この通りに回答しなければならない得点が得られないというものでもありません。
設例の顧客の相談内容および問題点
(受検生)と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。
以降の内容につきましては、FPキャンプ1級きんざい実技コースをご利用の方のみご覧いただけます。
FPキャンプをご利用中の方は、毎朝配信されるメールマガジンに記載されているパスワードを入力してください。
FPキャンプをご利用でない方は下記画像をタップしてコースをご利用ください。













