本記事の構成
本記事は以下の内容で構成されています。
・実際の設例
・本試験の概要と傾向
・得点のカギとなる論点
・各質問事項と検討のポイント
・実際の面接試験の想定応答集
実際の設例
それではまず、今回の設例を読んでいきましょう。
●設例●
Aさん(65歳)は、妻BさんとM市内の自宅マンションで暮らしており、子どもはいない。
現在、Aさんは大手物流会社に勤務しているが、3カ月後に退職予定である。
Aさんは、5年前に亡くなった父親から、都心ターミナルN駅徒歩5分の甲マンションの一室(5階に所在、専有面積50㎡、15万円で賃貸中)を相続で譲り受けている。母親は7年前に亡くなっており、実家は両親と暮らしていた兄Cさん(67歳)が相続している。
【甲マンション(甲土地)全体の概要】
敷地面積690㎡、延床面積2,270㎡、1972年築(築後約53年)、鉄筋コンクリート造8階建て、総戸数40戸、40㎡から60㎡(1LDK、2LDK主体)の分譲マンション。甲マンションに居住している区分所有者は2人だけで、他の所有者は賃貸物件として運用しているか自用の事務所として利用している。
Aさんは、4年前から甲マンション管理組合の理事を引き受けていたが、管理組合の理事長が昨年体調を崩してしまい、理事長職を引き継いだばかりである。
甲マンションでは、2カ月前に3階の部屋で水漏れ事故が発生した。このような水漏れ事故が過去にも2件発生しており、給排水管更新工事を行う必要があると管理会社から言われている。また、エレベーターについても管理している業者から数年内には更新したほうがよいと言われている(概算見積り3,000万円)。
昨年、大通りに面した北側隣接のガソリンスタンド(敷地面積420㎡)が閉鎖し、大手マンションデベロッパーのX社がその跡地である乙土地を今年購入している。先日、X社の担当者から連絡があり、Aさんと数人の理事が面談した。その際、担当者から、「甲マンションの敷地と建物を総額16億円(1戸平均で4,000万円)で購入させてほしいと思っている。直ぐの事業化は検討していないが、組合として検討していただけないか」との提案を受けた。
Aさん含め他の理事もX社の提案を魅力的なものと考えているが、昨年、5階の住戸(専有面積50㎡)が2,000万円で取引されており、なぜX社が老朽化している甲マンションをそのような条件で購入したいのか、腑に落ちていない。また、X社の提案により甲マンションを売却する場合、所有者全員の同意を得なければいけないのか、よくわからないでいる。
とはいえ、建物老朽化には抗えず、今後甲マンションをX社に売却するのか、あるいは建替えをするのかが、管理組合の主要な議題になっている。なお、ニュースなどで、マンションの建替えが容易ではないということを聞いたことはあるが、具体的に何が障壁となるのかはわかっていない。
このような状況のもと、FPであるあなたに相談があった。
(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定1級実技試験(資産相談業務)2025年
本試験の概要と傾向
本設例の概要
Aさん(65歳)は退職を間近に控えた大手物流会社勤務の会社員で、妻と2人で生活している。相続により取得した甲マンションの1室を賃貸運用しており、自身はその管理組合の理事長を務めている。
甲マンションは築53年と老朽化が進み、過去に複数回水漏れ事故が発生しているほか、エレベーターや給排水設備の更新も急務となっている。そのような中、大手デベロッパーX社から建物全体の買収提案を受け、売却か建替えかという大きな判断を迫られている。
Aさんや理事らは提案に魅力を感じつつも、売却には所有者全員の同意が必要なのか、また建替えに関しては法的・実務的にどのようなハードルがあるのかが分からず、判断に迷っている。
難易度・受験生目線の対策方法
老朽マンションの管理・再生に関する実務的な論点を取り扱った設例です。
給排水設備やエレベーターの老朽化対応に加え、建物全体の売却や建替えの選択肢が提示されており、区分所有法やマンション建替え円滑化法などに関する基本的な理解が問われます。特に、建替え決議の要件(区分所有者および議決権の各5分の4以上の賛成が必要)や、譲渡における全員合意の必要性など、法律的知識と現場感の両方が求められる内容です。
本設例の関連テーマ
建築基準法
ここで、しっかりと基礎知識を付けておくことが重要でしょう。
講義内では、これらの論点についてしっかり解説しておりますので、ここの知識を定着させていたかどうかが、本試験での回答力となったと言えるでしょう。
FPキャンプ内でも、これらの論点に関してはしっかりと解説しております。
・建築基準法② 建蔽率・容積率制限
「FPキャンプ1級実技試験コース」を受講されている方は、上記の観点テーマからしっかり学んでおきましょう。
得点のカギとなる論点
PartⅠと異なり、PartⅡでは質問事項が記載されているため、これらについて設例読みの段階で、想定される質問を整理しておきましょう。
(FPへの質問事項)
1.Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情
報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
①Aさんから直接聞いて確認する情報
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報
2.X社が甲マンションを購入することにどのようなメリットがあると思いますか。
3.甲マンションの敷地と建物について、所有者全員の同意を得ることなく一括売却する方法はあります
か。
4.マンションの建替え事業において、どのようなことが障壁になると考えられますか。
5.本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
なお、PartⅡの最初および最後の質問は、いずれの《設例》においても共通して出題される固定質問です。これらのいわゆる「王道質問」への備え方や考え方については、以下の記事をご参照ください。
PartⅡ対策 固定質問3つへの考え方
各質問事項と検討のポイント
それでは各質問事項に対する提案のポイントと、知っておくべき知識について解説していきます。
なお実際の試験で問われた細かな論点や質問事項などは、この後の「面接試験の想定応答集」で紹介しておりますので、本章では省略します。
質問2 X社が甲マンションを購入するメリット
提案のポイント
・一体開発による容積率の最大活用と、建替え・一括売却を見据えた事業性の確保
解説
X社が甲マンションを購入する最大のメリットは、甲土地と乙土地を一体地として利用し、土地の利用価値と収益性を高められる点にあります。
まず、甲土地単体では前面道路幅員の制限により、容積率は 5.5m × 0.6=330% に制限されます。
しかし、乙土地と一体地として利用できれば、前面道路が12m以上となり、指定容積率600%まで活用できる可能性があるため、建築可能な延床面積が大きく増加します。これにより、より規模の大きなマンションや複合開発が可能となり、分譲・賃貸による収益性の向上が見込めます。
また、甲マンションは1972年築の新耐震基準適用前の建物であり、専門家の確認次第では 要除却認定を受けられる可能性があります。要除却認定を受けた場合、
- 区分所有者および議決権の 5分の4以上の賛成で敷地一括売却が可能
- 将来的には、法改正によりより緩和された要件での一括売却も視野に入る
など、建替え・再開発に向けた合意形成がしやすくなる点も、デベロッパーであるX社にとっては大きなメリットです。さらに、甲マンションはターミナル駅から徒歩5分という立地条件を有しており、希少性の高い立地をまとめて取得できる点も、事業性を高める要素といえます。
サトシ講師サトシ講師のワンポイント
甲マンション自体は築年数が古く、修繕コストもかかりますが、X社にとっては 「建物」ではなく「土地の潜在的な開発価値」 が重要です。そのため、将来的な再開発を見据え、高額での一括購入を提案する合理性があると整理できます。
質問3 所有者全員の同意を得ることなく一括売却する方法
提案のポイント
・マンション建替円滑化法の「敷地売却制度」を活用する
・区分所有法改正(2026年4月1日施行)による一括売却要件の緩和を押さえる
解説
通常、マンションを一括で売却するためには、区分所有者全員の同意が必要となります。しかし、老朽化マンションなど一定の要件を満たす場合には、マンション建替円滑化法の敷地売却制度を活用することで、全員の同意がなくても一括売却が可能となります。
① マンション建替え円滑化法の「敷地売却制度」
敷地売却制度とは、区分所有者および議決権の各5分の4以上の多数の賛成を得ることで、マンションとその敷地を一体として第三者に売却できる制度です。この制度を利用することで、建替えが困難な老朽マンションについても、再開発や土地の有効活用につなげることができます。
② 要除却認定の主な要件
要除却認定は、次のような場合に認められます。
・耐震性が不足しており、地震時に倒壊のおそれがある場合
・外壁や設備の老朽化により、周辺に危害を及ぼすおそれがある場合
今回のケースでは、1972年築の新耐震基準適用前のマンションであるため、専門家による耐震診断等を前提とすれば、要除却認定を受けられる可能性は十分にあると考えられます。
③ 区分所有法改正(2026年4月1日施行)のポイント
2026年4月1日以降は、区分所有法の改正により、一括売却の要件が次のように緩和されます。
・要除却認定なし
→ 区分所有者および議決権の各5分の4以上の賛成で一括売却が可能
・要除却認定あり
→ 区分所有者および議決権の各4分の3以上の賛成で一括売却が可能
この改正により、老朽マンションの再生や売却が、従来よりも進めやすくなる点が重要なポイントです。
質問4 建替え事業において障壁になること
提案のポイント
・理事会で区分所有者の意向を整理し、住民の合意形成を図ったうえで方向性を判断する
解説
マンション建替え事業において、まず大きな障壁となるのが区分所有者の経済的負担です。近年は建築費が高騰しており、建替えに伴う自己負担額は増加傾向にあります。
加えて、区分所有者が実際に負担する費用としては、下記のような費用も発生します。
- 建替え期間中の仮住まい費用・引越費用
- 賃貸中の場合の立退料
さらに実務上の大きな課題が、区分所有者の合意形成です。建替え決議には、原則として区分所有者および議決権の各5分の4以上という高いハードルがあります。本件では、甲マンションに実際に居住していない区分所有者が多いため、連絡調整や意向把握に時間がかかり、合意形成は容易ではないと考えられます。
そのため本ケースでは、
- 建替え:資産価値は向上するが負担・合意形成が重い
- 修繕:短期的負担は軽いが老朽化問題が残る
- 売却:敷地売却制度を含めた現実的な選択肢
という三つの選択肢を整理し、まずは理事会で区分所有者の意見を集約したうえで、マンション全体として最適な方向性を判断する、という流れが現実的な対応となるでしょう。
実際の面接試験の想定応答集
それでは、上記の質問事項と知識の整理を踏まえたうえで、実際に試験会場で面接官から行われた質問を再現した、想定応答集をご覧ください。
想定応答集の注意点
- 本想定応答集は、金財実施のFP1級実技試験を実際に受験した「FPキャンプ1級実技コース」受講生のアンケ―トに基づき、FPキャンプ講師陣が実際の面接試験のやりとりを再現したものです。
- 「FPキャンプ1級実技コース」は、1級実技試験受験生の23.8%が利用し、利用者数は各試験ごとに180名以上となっています。本想定応答集では、大量のアンケートデータを集計し、試験機関が想定されていると思われる王道の質問の流れをご紹介しています。
- 記事の都合上、本想定応答集は、実際に行われた質問を一言一句再現したものではありません。面接官や本番試験の解答の流れによって、異なる質問が行われているケースもございます。
- 本想定応答集の回答は、FPキャンプ講師陣が考える模範解答を掲載しております。試験機関側が模範解答としたものではありません。また、この通りに回答しなければならない得点が得られないというものでもありません。
質問1 Aさんから直接聞いて確認する情報とFPであるあなたが調べて確
認する情報
(受検生)と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんから直接聞いて確認する情報として考えられる項目は何がありますか?
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