本記事の構成
本記事は以下の内容で構成されています。
・実際の設例
・本試験の概要と傾向
・得点のカギとなる論点
・各質問事項と検討のポイント
・実際の面接試験の想定応答集
実際の設例
それではまず、今回の設例を読んでいきましょう。
●設例●
Aさん(60歳)は、都内で化学品卸売業を営むX株式会社(非上場会社)の2代目社長である。X社は、100%子会社として加工製造部門を持ち、仕入先である化学メーカーとの擦り合わせによる高い技術と品質で得意先の信頼を得てきた。伝統商品である顔料・染料のほか、近年は半導体向けの電子部品材料の需要が旺盛で、業績は堅調に推移している。
【事業承継について】
Aさんには長男Cさん(28歳)と長女Dさん(25歳)の2人の子どもがいる。Aさんは4人兄弟の長男として創業者である父からX社を引き継いだ経験から、自分の長男に事業承継することを既定路線と考えてきた。そこで、長男Cさんが大学生だったときに話し合いの場を持ち、長男Cさんも覚悟を決めて受け入れたところである。現在、長男Cさんは、X社の主要仕入先である大手化学メーカーに勤務し、「製造」「リスク管理」「経理・財務」等、さまざまな業務を経験しており、X社が創業50周年を迎える2年後にX社に転じる予定である。
また、Aさんは、ゆくゆくは長男Cさんにバトンタッチをするものの、社長交代に至るまでのキャリアパスとX社株式の移転をどうするかは思案中である。特に、適用期限が迫っている法人版事業承継税制の特例措置の適用を受けるかどうかは早めに決めなければならないと感じている。
【資産承継等について】
Aさんは、X社株式を後継者である長男Cさんに承継し、現預金および有価証券の半分と
自宅を妻Bさんに相続した場合、長女Dさんとの間で相続財産の不均衡が生じることに不安
を感じている。
Aさんは、優良企業のオーナー社長として名が通っていることから、相続・事業承継に絡
めて、銀行をはじめ、保険会社、証券会社、不動産会社、リース会社等からさまざまな商品
の提案を受けており、情報整理の必要性を感じている。
【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
1.現預金 : 1億円(役員退職金は考慮していない)
2.有価証券 : 1億円
3.X社株式 : 4億5,000万円
4.自宅
①土地(250㎡) : 2億円
②建物(築10年) : 5,000万円
合計 : 9億円
※Aさんの相続に係る相続税額は、約3億1,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減
適用前)と見積もられている。
【X社の概要】
資本金:5,000万円 会社規模:大会社 従業員数:150人
売上高:60億円 経常利益:1億円 純資産:15億円
株主構成(発行済株式総数10万株):Aさん90%、妻Bさん5%、取引先法人5%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額5,000円/株、純資産価額20,000円/株(注)
(注)本社・工場等の不動産や取引先の上場会社株式の含み益が大きい。
(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
【Aさんの家族構成(推定相続人)】
妻Bさん (58歳):専業主婦。Aさん、長女Dさんと自宅で同居している。
長男Cさん(28歳):大手化学メーカー勤務。独身。賃貸マンションに居住している。
長女Dさん(25歳):会社員。独身。Aさん、妻Bさんと自宅で同居している。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定1級実技試験(資産相談業務)2025年6月
本試験の概要と傾向
本設例の概要
法人版事業承継税制の特例措置を軸に、非上場株式の評価と遺産分割の調整を問う設例です。
特例措置の適用期限が迫る中で、制度の要件や手続き、メリット・デメリットを正確に理解しているかが重要なポイントとなります。
また、後継者以外の相続人との公平性をどう担保するか、相続財産の偏りに対する代償分割や保険活用など、実務的な提案力が問われます。
さらに、オーナー社長に対して多数の金融機関から提案が寄せられているという設定から、情報の取捨選択や整理力も求められる問題でした。
難易度・受験生目線の対策方法
Aさん(60歳)は化学品卸売業を営むX社の2代目社長であり、創業50周年を迎える2年後に、現在大手化学メーカー勤務の長男Cさんへ事業承継を予定している。
事業承継に際して、社長交代までの長男Cさんのキャリアパスや、X社株式の移転方法について思案しており、法人版事業承継税制の特例措置を活用するかどうか早期判断が必要と感じている。
Aさんは、自宅・現預金・有価証券の一部を妻Bさんに相続させ、X社株式を長男Cさんに承継させる方針だが、長女Dさんとの相続バランスが偏ることに不安を感じている。
優良企業のオーナー社長として金融・不動産各社から多くの提案を受けており、情報整理と選別の必要性を強く感じている。
総資産が9億円、相続税評価額も高額であり、相続税の負担を踏まえた円滑な資産・株式承継が重要課題となっている。
本設例の関連テーマ
・法人版事業承継税制
ここで、しっかりと基礎知識を付けておくことが重要でしょう。
講義内では、本論点についてしっかり解説しておりますので、ここの知識を定着させていたかどうかが、本試験での回答力となったと言えるでしょう。
FPキャンプ内でも、本論点に関してはしっかりと解説しております。
「FPキャンプ1級実技試験コース」を受講されている方は、上記の観点テーマからしっかり学んでおきましょう。
得点のカギとなる論点
設例読みの段階で、想定される質問として考えておくべき論点は以下のポイントです。
・事業承継税制の適用を受けるかどうかについて
・資産承継にあたって長男Cと長女Dとで偏りが生じる恐れがあること
・金融機関等からさまざまな商品の提案を受けたためその情報整理
またこれらに加えて、Part1特有の王道質問への回答も考えておく必要があります。
1級実技試験の王道質問と、それに対する備え方、考え方については、こちらの記事をご覧ください。
partⅠ対策:何を質問すべきかが見えてくる-ポイントABCの思考法
各質問事項と検討のポイント
それでは各質問事項に対する提案のポイントと、知っておくべき知識について解説していきます。
なお実際の試験で問われた細かな論点や質問事項などは、この後の「面接試験の想定応答集」で紹介しておりますので、本章では省略します。
論点1 事業承継税制の適用を受けるかどうかについて
提案のポイント
非上場株式等についての贈与税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)措置の利用を提案
解説
事業承継においては、先代経営者から後継者へ株式を贈与する際に、贈与を受けた側に多額の贈与税が発生することが、円滑な承継を妨げる要因の一つとなっています。そのため、贈与税を発生させずに株式を移転できる「法人版事業承継税制」の活用を提案することが、ここでは最適といえるでしょう。
なお、この特例の適用には複数の要件や手続きが必要であり、実技試験の面接でも頻出の論点となっているため、条件や流れについてもあわせて確認しておくことが重要です。
適用のポイントは、期限の把握と後継者の要件です。特例の承継計画を2026年3月31日までに提出し、承継を2027年12月31日までに実行する必要があります。また、後継者は贈与直前に役員であればよく、2025年改正で「役員就任3年以上」という要件は撤廃されました。したがって、今回のケースでは長男Cさんは現在役員ではありませんが、承継時に役員就任していれば要件を満たすことになります。
さらに、代表権を持ち議決権の過半数を保有するなど、実質的な経営権を確実に握ることが条件とされています。これらを踏まえ、計画的に承継準備を進める必要があります。
論点2 資産承継にあたって長男Cと長女Dとで偏りが生じる恐れ
提案のポイント
遺留分に関する民法の特例(除外合意)の活用を提案
解説
相続において会社の株式を後継者に集中させると、他の相続人との間で不公平感が生じやすくなります。本説例では、後継者である長男Cさんに株式を集中させた場合、長女Dさんの遺留分は相続財産の8分の1(1億1,250万円)にあたり、侵害される可能性があります。遺留分の侵害が生じると、長女Dさんは遺留分侵害額請求権を行使し、金銭の支払いを求めることができます。
この問題を解消する方法の一つが、遺留分に関する民法の特例です。後継者による事業承継を円滑に進めるため、相続人全員の合意と裁判所の許可を得れば、特定の財産(会社の株式)を遺留分算定の基礎から除外できる「除外合意」や、その評価額をあらかじめ固定できる「固定合意」が可能です。本ケースでは、株式の集中承継が目的のため、除外合意を提案します。
遺言と併せてこうした制度も利用することで、株式承継後に金銭トラブルが発生するリスクを抑えられます。
論点3 見込み相続税額が高額
提案のポイント
小規模宅地の特例を活用
解説
Aさんの見込み相続税額は約3億1,000万円と高額であるため、税負担を軽減する小規模宅地の特例を提案します。自宅土地について配偶者が相続すれば、330㎡を限度に評価額を80%減額できます。この特例は申告期限までに配偶者が売却した場合でも適用可能です。そのため、妻Bさんが自宅を相続した後に売却し、換金して生活資金や納税資金に充てるという選択肢もあります。
実際の面接試験の想定応答集
それでは、上記の質問事項と知識の整理を踏まえたうえで、実際に試験会場で面接官から行われた質問を再現した、想定応答集をご覧ください。
想定応答集の注意点
- 本想定応答集は、金財実施のFP1級実技試験を実際に受験した「FPキャンプ1級実技コース」受講生のアンケ―トに基づき、FPキャンプ講師陣が実際の面接試験のやりとりを再現したものです。
- 「FPキャンプ1級実技コース」は、1級実技試験受験生の23.8%が利用し、利用者数は各試験ごとに180名以上となっています。本想定応答集では、大量のアンケートデータを集計し、試験機関が想定されていると思われる王道の質問の流れをご紹介しています。
- 記事の都合上、本想定応答集は、実際に行われた質問を一言一句再現したものではありません。面接官や本番試験の解答の流れによって、異なる質問が行われているケースもございます。
- 本想定応答集の回答は、FPキャンプ講師陣が考える模範解答を掲載しております。試験機関側が模範解答としたものではありません。また、この通りに回答しなければならない得点が得られないというものでもありません。
設例の顧客の相談内容および問題点
(受検生)と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。
以降の内容につきましては、FPキャンプ1級きんざい実技コースをご利用の方のみご覧いただけます。
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