本記事の構成
本記事は以下の内容で構成されています。
・実際の設例
・本試験の概要と傾向
・得点のカギとなる論点
・各質問事項と検討のポイント
・実際の面接試験の想定応答集
実際の設例
それではまず、今回の設例を読んでいきましょう。
●設例●
Aさん(65歳)は、大都市圏にあるM市内の自宅で妻Bさん(65歳)と2人で暮らしている。1人息子の長男Cさん(40歳)は、隣のS市内で独立し生計を立てている。Aさんの父親は、母親が亡くなった後もS市内の最寄駅から徒歩5分圏内にある実家(甲土地・甲建物)で1人暮らしをしていたが、3年前に要介護認定を受け老人ホームに入所していた。その父親も2024年6月に老人ホームで亡くなり、Aさんは、実家(甲土地・甲建物)、隣接する乙土地および道路を挟んだ丙土地を相続した。Aさんは、甲建物の取扱いも含めて、相続により取得した不動産の活用の見直しを考えている。
【Aさんが相続により取得した不動産の概要】
・甲土地:地積250㎡
・甲建物:木造2階建て、延べ面積150㎡、築50年、固定資産税評価額300万円。甲建物は、A
さんの父親が老人ホームに入所後は空き家となっている。
・乙土地:40年前にAさんの父親がDさんに非堅固建物所有目的で賃貸し、Dさんは乙建物
(木造平屋建て180㎡)を建築して青果店を営んでいる。貸地面積250㎡、月額地代30
万円。
・丙土地:地積150㎡。アスファルト敷の月極駐車場(8台)であり、月額12万円(稼働率
100%)の収入がある。Aさんの父親が相続対策になると考え、2005年に8,000万円
で購入したもので、借入金等はない。
先日、Aさんは、乙土地の借地人Dさん(70歳)から、「長男が、この地域で150㎡程度の土地で内科医院の開業を計画しています。私は乙土地での青果店を廃業し、乙土地を長男の医院用地に転用したいと思っており、ぜひ借地権と底地を交換していただけないでしょうか。交換が無理であれば、乙土地の借地権を9,000万円で不動産業者に譲渡したいので承諾してほしいと思います。譲渡承諾料として借地権の譲渡価格の10%を支払う用意があります」と申出を受けた。
Aさんは、父親の代から親交のあったDさんに協力したい気持ちはある。しかし、乙土地は最寄駅に近く繁華性のある整形の土地で、父親の生前から現在の地代収入を上回る有効活用の提案を数社から受けていることもあり、Dさんから申出のあった借地権と底地の交換ではなく、借地関係を解消して乙土地全体を完全所有権化し、新たな土地活用を図りたいと考えている。そこで、Aさんは、乙土地の借地関係を解消するにはどのような方法があるか、FPであるあなたに相談することにした。なお、Aさんは父親の相続時に納税のため預金を取り崩しており、手元に借地権を買い取る資金はなく、甲土地または丙土地を活用したいと思っている。
(FPへの質問事項)
1.Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報
が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
①Aさんから直接聞いて確認する情報
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報
2.甲土地を活用して乙土地の借地関係を解消するには、どのような方法がありますか。
3.丙土地を活用して乙土地の借地関係を解消するには、どのような方法がありますか。
4.あなたは、乙土地の借地関係を解消するために、どのような方法を勧めますか。その理由とと
もに教えてください。
5.本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
【甲土地・乙土地・丙土地の概要】

【甲土地・乙土地・丙土地の評価額】

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定1級実技試験(資産相談業務)2025年2月
本試験の概要と傾向
本設例の概要
長男Cさんとは別居しているAさんは、父の死去により甲・乙・丙の3つの土地を相続したことを契機に、今後の不動産活用を見直したいと考えている。
借地人Dさんから、乙土地の借地権を自身の長男の医院開業用地として活用したいとの相談を受け、底地との交換または借地権譲渡の承諾を求められているが、Aさんとしては乙土地の価値を重視して借地関係を解消し、将来的に甲・乙土地を一体的に有効活用することを望んでいる。ただし、借地権の買い取り資金が手元にないため、甲土地や丙土地の活用方法も含めて検討しており、どの方法が最適かFPに相談したいと考えている。
難易度・受験生目線の対策方法
本設例は、借地権または底地の買取や固定資産の交換の特例を利用した「借地関係の解消」がテーマであり、他のテーマと比べて、与えられた図表を正確に読み取る力が求められます。加えて、設例中には必ず本人の意向が明記されているため、その意向を踏まえた上で、整合性のある提案となっているかどうかにも十分注意を払う必要があります。
本設例の関連テーマ
・固定資産の交換の特例
・空き家に関するルールと特例
ここで、しっかりと基礎知識を付けておくことが重要でしょう。
講義内では、借地関係の解消の手段としての固定資産の交換の特例、空き家に関するルールの特例についてしっかり解説しておりますので、ここの知識を定着させていたかどうかが、本試験での回答力となったと言えるでしょう。
FPキャンプ内でも、これらの特例に関してはしっかりと解説しております。
https://www.fp-camp.net/products/fp1-2/categories/2156057709/posts/2183442609
https://www.fp-camp.net/products/fp1-2/categories/2156057709/posts/2183442606
「FPキャンプ1級実技試験コース」を受講されている方は、上記の観点テーマからしっかり学んでおきましょう。
得点のカギとなる論点
PartⅠと異なり、PartⅡでは質問事項が記載されているため、これらについて設例読みの段階で、想定される質問を整理しておきましょう。
1.Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要
ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
①Aさんから直接聞いて確認する情報
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報
2.甲土地を活用して乙土地の借地関係を解消するには、どのような方法がありますか。
3.丙土地を活用して乙土地の借地関係を解消するには、どのような方法がありますか。
4.あなたは、乙土地の借地関係を解消するために、どのような方法を勧めますか。その理由とともに教
えてください。
5.本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
なお、PartⅡの最初および最後の質問は、いずれの《設例》においても共通して出題される固定質問です。これらのいわゆる「王道質問」への備え方や考え方については、以下の記事をご参照ください。
https://blog.fp-camp.net/wp-admin/post.php?post=4346&action=edit
各質問事項と検討のポイント
それでは各質問事項に対する提案のポイントと、知っておくべき知識について解説していきます。
なお実際の試験で問われた細かな論点や質問事項などは、この後の「面接試験の想定応答集」で紹介しておりますので、本章では省略します。
質問2 甲土地を活用した乙土地の借地関係の解消方法
提案のポイント
・甲土地を売却した資金で乙土地の借地権を買い取る
解説
甲土地上には、生前Aさんが住んでいた建物※があり、現在は空き家になっていることから、空き家の譲渡所得の特別控除を使うことができます。本特例の主な要件は以下の通りです。
【特別控除額】
相続人1人につき3,000万円
(相続人が3人以上いる場合は1人当たり2,000万円)
【要件】
・相続開始直前まで被相続人が1人で居住していた家屋であること
※介護保険法の要介護・要支援認定を受けていた場合は老人ホーム等に入所していた場合も対象
・1981年5月31日以前に建築された建物であること
・区分所有建物登記がされている建物でないこと
・譲渡対価の合計額が1億円以下であること
質問3 丙土地を活用した乙土地の借地関係の解消方法
提案のポイント
・丙土地と乙土地の借地権を固定資産の交換の特例により交換をする
解説
固定資産の交換の特例について確認をしておきましょう。
【概要】
土地と土地、建物と建物の交換をした場合に、譲渡資産の譲渡益がなかったものとみなされて課税が繰り延べられる制度
【主な要件】
・譲渡・取得する資産は同種※の固定資産であること
・交換する両者の所有期間が1年以上であり、交換のために取得したものではないこと
・譲渡資産の時価と取得資産の時価との差額が、いずれか高い方の価額の20%以内であること
※土地と建物の交換は認められないが、土地と借地権の交換は認められる
甲土地の評価額が1億円、丙土地の評価額が9,000万円であることから、両者の時価差は高い方の20%以内に収まっており、固定資産の交換の特例の適用要件を満たしています。
質問4 乙土地の借地関係を解消するための最適な方法
提案のポイント
・甲土地を売却した資金で乙土地の借地権を買い取る
・丙土地と乙土地の借地権を交換する
解説
提案にあたっては、Aさんの意向として「借地権を現金で買い取ることはできず、甲土地または丙土地を活用したい」とされている点を踏まえる必要があります。状況を整理すると、
① 借地権を現金で取得することは困難であるため、
→ 乙土地の借地権を取得するには、甲土地または丙土地を活用する必要がある。
② 土地を有効活用したいという意向があるため、
→ 乙土地単独よりも、甲・乙土地を一体で活用することで、土地の価値向上が期待できる。
以上の①②の両方を満たす提案が、Aさんにとって最適な方策といえます。この観点から見ると、甲土地の売却は土地の一体利用の可能性を損なうため、最適とは言えません。
一方、借地人であるDさんの意向としては、「150㎡程度の土地を確保して病院を開業したい」とされており、Aさんが所有する丙土地の地積が150㎡であることから、このニーズに合致します。
したがって、Aさんが丙土地とDさんの乙土地の借地権を交換することで、Aさんは甲・乙土地を一体で所有できるようになり、Dさんも病院開業に必要な土地を取得できることから、双方にとって合理的かつ現実的な解決策となります。
実際の面接試験の想定応答集
それでは、上記の質問事項と知識の整理を踏まえたうえで、実際に試験会場で面接官から行われた質問を再現した、想定応答集をご覧ください。
想定応答集の注意点
- 本想定応答集は、金財実施のFP1級実技試験を実際に受験した「FPキャンプ1級実技コース」受講生のアンケ―トに基づき、FPキャンプ講師陣が実際の面接試験のやりとりを再現したものです。
- 「FPキャンプ1級実技コース」は、1級実技試験受験生の23.8%が利用し、利用者数は各試験ごとに180名以上となっています。本想定応答集では、大量のアンケートデータを集計し、試験機関が想定されていると思われる王道の質問の流れをご紹介しています。
- 記事の都合上、本想定応答集は、実際に行われた質問を一言一句再現したものではありません。面接官や本番試験の解答の流れによって、異なる質問が行われているケースもございます。
- 本想定応答集の回答は、FPキャンプ講師陣が考える模範解答を掲載しております。試験機関側が模範解答としたものではありません。また、この通りに回答しなければならない得点が得られないというものでもありません。
問題1 Aさんから直接聞いて確認する情報とFPであるあなたが調べて確認す
る情報
(受検生)と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんから直接聞いて確認する情報として考えられる項目は何がありますか?
以降の内容につきましては、FPキャンプ1級きんざい実技コースをご利用の方のみご覧いただけます。
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